「父の約束」
いつも読んでくださりありがとうございます。
前回は少し激しい展開となりましたが、今回はその後のお話になります。
フィラとオズワルド、それぞれの想いを少しでも感じていただけたら嬉しいです。
さて、第16話です。
今回もお付き合いいただけたら幸いです。
フィラの放った力は――
すべてを吹き飛ばした。
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暴走して生まれた竜巻は、人間の魔道兵器を粉々に砕き。
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森に侵入していた人間の軍を、余すことなく押し流した。
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戦いは、終わった。
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大公軍は、勝利した。
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だが――
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フィラは、そのまま気を失っていた。
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「……フィラ」
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オズワルドは、小さな身体を抱き上げる。
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泣き疲れ、力なく眠るその姿に。
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胸の奥が、強く締め付けられた。
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(……俺が、守ると決めたのに……)
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腕の中のぬくもりが、ひどく頼りなく感じる。
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(……こんな小さな体に……何を背負わせている……)
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そのまま軍を率い、城へと帰還した。
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それから――
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フィラは、目を覚まさなかった。
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一日。
二日。
三日――
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どれだけ呼びかけても、応えはない。
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オズワルドは、戦いの疲れを癒すこともせず。
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ただ、ずっとそばにいた。
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「……閣下、少しはお休みを」
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ラースが静かに言う。
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「……必要ない」
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短く返す。
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視線は、一度もフィラから離れなかった。
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(……失うわけにはいかない)
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たったひとりの娘。
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ようやく――
心から愛することを許された存在。
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それを。
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失うなど、考えられなかった。
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そして――
十日ほどが過ぎた頃。
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「……ん……」
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かすかな声。
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「……フィラ……!」
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ゆっくりと、瞼が開く。
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最初に映ったのは――
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「……とうさま……?」
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オズワルドの顔だった。
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その瞬間。
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涙が、溢れた。
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「……ごめんなさい……」
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「……めいわく……かけて……」
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震える声。
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オズワルドは、何も言わずに頭を撫でる。
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(……違う……)
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そんな言葉を、この子に言わせてはいけない。
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「……子供が親に迷惑をかけるのは、当たり前だ」
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静かに、だがはっきりと告げる。
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「……お前がやったことを、迷惑だと思ったことは一度もない」
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そっと抱き上げる。
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「……謝るとしたら」
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「……俺たちに心配をかけたことだけでいい」
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膝の上に乗せ。
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涙を拭う。
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「……だが」
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「……お前を不安にさせたのは、俺だ」
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「……すまなかった」
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頭を下げる。
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フィラは慌てて首を振る。
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「……ちがいます……!」
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「……フィラが……いけないの……」
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「……役に立たなきゃ……ここにいられないって……」
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「……すてられるって……こわくて……」
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ぎゅっと、しがみつく。
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「……利用していいから……ここにおいて……」
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その言葉に。
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オズワルドの中で、何かが切れた。
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(……誰が、そんなことを教えた)
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怒りと。
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それ以上の――
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悔しさ。
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「……利用などしない」
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強く、言い切る。
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「……たとえ聖女でなくても」
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「……何の力がなくても」
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「……お前は、俺の娘だ」
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「……俺の、愛しい娘だ」
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その言葉に。
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フィラの瞳が揺れる。
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フィラは――
オズワルドの胸に顔を埋めた。
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(……ほんとうに……?)
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前世。
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美桜として生きた日々。
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価値がある時だけ、与えられた居場所。
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(……でも……)
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この腕は、温かい。
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(……しんじたい……)
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「……心配かけて……ごめんなさい……」
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ぽつりと呟く。
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「ああ……」
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「……もう二度と、あんな無茶はするな」
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「……お前に何かあったら……その方が俺は辛い」
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その言葉に、顔を上げる。
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「……フィラも……」
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「……とうさまが、けがするの……いや……」
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「……あんまり……たたかってほしくない……」
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オズワルドは、静かに頷く。
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「……わかった」
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「……だが、俺は民を守るため戦わねばならん」
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「……その代わり」
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優しく微笑む。
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「……必ず勝って、お前の元に帰ると約束する」
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フィラは、こくんと頷いた。
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その時――
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ノックの音。
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ツェリとラースが入ってくる。
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「フィラ様……!」
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涙を流すツェリ。
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「……ご無事で何よりです」
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ラースも静かに頭を下げる。
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フィラは一瞬口を開き――
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「めいわ…」
と言いかけたところで、軽くオズワルドが背中を叩かれ、ハッとする。
言葉が違う。
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「……心配かけて……ごめんなさい」
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そう言い直し、頭を下げた。
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その姿を見て。
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オズワルドは、静かに目を細めた。
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(……もう二度と)
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(……この子に、あんな顔はさせん)
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その決意だけが、強く胸に刻まれていた。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
フィラの「怖い」と「信じたい」がぶつかる回でした。
書いていてちょっと苦しかったですが、その分大事な場面になりました。
もし少しでも何か感じてもらえていたら嬉しいです。
また次回も読んでいただけたら励みになります。




