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虹色の雪

作者: 葉裏
掲載日:2026/03/17

実際に身近なところでおきたことを童話風にまとめてみました。

むかし、そこはとても大きな街でした。

でもだんだん人もすくなくなり、お店がどんどんへって行きました。

たろうくんはお爺さんに聞きました。

「ねえ、この街にたったひとつあるこの店がなくなったらどうなるの?」

お爺さんは言いました。

「もしこの店がなくなったら、この街の人間はみんな買い物難民になるんだ」

それは買い物をしたくてもできない人間になってしまうという意味でした。

「そうなったら、買い物しなきゃ食べていけないから、タクシーを使って店のある街まで買い出しにいかなくちゃならなくなる」

「うわあ、たいへんだね。じゃあ、この店がずっとあれば良いね」

するとお爺さんは難しい顔をしました。

「それはどんな店でもずっとあった方が良いに決まってる。でもな、つぶれてなくなる店には、ある前兆があるんだ」

「前兆って?」

「このままだとつぶれてしまうという予告みたいなものだよ」

「どんな予告?」

お爺さんは目の前の大型店の歩道を指さした。

「見てごらん。歩道に草がボウボウと生えているだろう? あれはこの店がやがてつぶれるしらせみたいんものなんだ」

「どうして?」

「草がボウボウのびほうだいだと、来るお客さんが嫌な感じがして足が遠のくんだ。そんな店に近づきたくないだろう?」

「そうかぁ」

たろうくんはそれじゃあ、あの歩道の草は誰がとるんだろうと思った。

「あの場所は公道だからしいていえば市の管轄だけど、市の方は予算の関係でそこまで手がまわらない。

お店の人が余裕があれば草取りをするだろうけど、忙しくてできてないみたいだ。

だからあの歩道を使う人がだれでもいいから草取りをしてくれれば良いんだけれどな」

たろうくんは次の朝に早く起きて、誰も通行人がいないときにお店の前の歩道に行き、こっそり草取りをした。

人が見ている所でやれば目立つし、はずかしいからだ。

何日かしてお爺さんは言った。

「おやいつの間に店の前の草がなくなったな」

「ほんとうだね」

「もしかして店の人がやったのかな?」

「きっとそうだよ。これで店はつぶれないね」

するとお爺さんは首を横に振った。

「いやいや、あの歩道をよく見るとタバコの吸い殻やお菓子の袋やジュースの空き缶が落ちている。

そんな汚い道を通ってお客さんが来たがるだろか」

「そ……そうだね」


たろうくんはその次の朝も早く起きて、タバコの吸い殻やお菓子の袋や空き缶を拾って集めた。

何日かしてお爺さんは言った。

「おやいつの間に店の前の歩道にゴミがなくなっているな」

「ほんとだね、これで店がつぶれないね」

するとお爺さんは遠くを見るような目をして言った。

「だが問題は冬になってからだ」

「えっ、冬に?」

「冬になって雪が降ると、ここに買い物に来るお年寄りが来れなくなってしまう」

「どうして?」

お爺さんは歩道を歩く一人のお婆さんを手でしめしました。

そのお婆さんはショッピングカートを引っ張って歩いています。

「あの人が雪の積もった歩道を歩くのは大変だろう。でもお店の人は雪かきをする時間がないんだよ。だとするとお年寄りは買い物に来れなくなる」

なるほど雪が積もればカートについている車輪は小さいからカートを押して歩けなくなる。

それでたろうくんはあるけっしんをしました。


冬になって雪が降ってきました。

雪が積もった朝にたろうくんは除雪の道具を持ってお店の前の歩道を除雪しました。

人がそこを通ってお店に来れるようにと。

それから雪が積もった朝は必ず早起きして、誰も見ていない時間に歩道をきれいにしました。

お店にはタクシーがとまります。遠くに荷物を持って帰るお客さんをのせるためです。

だからお客さんがタクシーに乗る場所も雪をとりました。



あるときお爺さんが病院のベッドで家族に囲まれて寝ているときにたろうくんを枕元に呼びました。

お爺さんは小さい声で言いました。

「つづけていればお店はなくならない」

それはたろうくんにだけ聞こえるとてもちいさな声でした。

そう言ってからお爺さんは天国へ旅立ったのです。

それから何年も経ちました。

いくつもの冬が来て過ぎて行きました。

でもお店はずっと残っていました。

おおきくなったたろうさんは雪がふりつもった朝に早起きをして歩道の雪かきを始めました。

するとやんでいたたはずの雪がまたふってきました。

その雪は大きな綿のようで、しかもおまつりのわたあめのように色々な色がついていました。

「うわああ、なないろの雪だ。きれいだな」

たろうさんは虹のような色の雪を楽しみながら雪かきをしました。

そして雪かきが終わる頃、虹色の色はすっかりきえていました。

まるでそんな雪がふらなかったかのように。

それからまたいくつもの冬がやってきましたが、あの虹色の雪は二度と降りませんでした。

そしてたろうくんの家のそばにある大きなお店はずっとつぶれないで続いていました。

でもお店にやって来る人は誰がこの歩道の草をむしって、ゴミを拾ってるのかを気づきもしませんでした。

そして冬には誰がこの歩道をきれいに雪かきしているのか考えようともしませんでした。

でもお客さんたちはこのお店にいつも集まって買い物をするので、まだまだ店はつぶれずにつづきそうです。

そうです。誰も知らないのです。どうしてこの店が続いているのかを。

そして誰も知らないのです。

一度だけ神様がご褒美にたろうさんのために虹色の雪を降らせたことも。

またどこかでお会いしましょう。

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