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剣の神

 街道から、少し離れた場所で。


 レグルスは馬から降りた。


「ここで待っていてくれ」


 振り返らずに言う。


 リオラは少し目を丸くする。


「え?」


 だが、

 止めるより先に――


 レグルスは歩き出していた。


 ひとりで、

 岩の方へ向かう。


 砂を踏む音だけが続く。


 竜種は、

 まだ動いていない。


 だが、

 巨大な瞳がこちらを見ていた。


 距離が縮まる。


 近づくほど、

 その大きさがはっきりする。


 見上げるほどの巨体。


 神の爪痕の岩ほどではない。


 だが、

 人が立てば影に飲まれるほどだった。


 翼。


 角。


 長い尾。


 赤い鱗が、

 砂の光を鈍く返している。


 レグルスは、静かに見ていた。


 ――やはり。


 あの魔獣に似ている。


 竜種が、

 低く唸った。


 警戒している。


 だが、

 まだ動かない。


 風が砂を運ぶ。


 次の瞬間――


 レグルスが地面を蹴った。


 体が、

 一気に跳ね上がる。


 高く。


 竜種の視界の高さまで。


 拳が振られた。


 鈍い衝撃。


 竜種の頭が大きく揺れる。



 そのまま――



 巨体が地面に叩きつけられた。



 砂が大きく舞い上がる。


 砂煙が、ゆっくりと落ちていく。


 竜種は動かない。

 巨体が地面に沈んでいる。


 息はある。

 だが、しばらく起き上がれない。



 その光景を見た瞬間――


 レグルスの記憶が、

 遠くへ引き戻される。


 昔も。


 同じ竜種を、

 見たことがある。





 竜種の魔獣が、

 咆哮を上げる。


 巨大な尾が振られ、

 地面が砕ける。


 四人は散っていた。


 レグルス。


 皇子。


 団長。


 そして――


 少し離れた後方。


 先生が、

 魔法陣を展開している。


 青い光が、

 足元に広がっていた。


「チッ」


 皇子が舌打ちする。


「なかなかしぶといな」


 レグルスは息を整える。


 鎧は裂け、

 腕から血が流れていた。


 それでも目は竜種を見ている。


「もうちょっとだ」


 低く言う。


「ここから畳み掛けよう」


 竜種が咆哮した。


 地面が震える。


 レグルスが前へ出る。


「俺と皇子で体勢を崩す」


「――あとは団長」


 振り向かずに言う。


「任せます」


 団長が笑う。


「おう!」


 次の瞬間。


 レグルスと皇子が、

 同時に踏み込んだ。


 連撃。


 剣が鱗を叩く。


 火花が散る。


 竜種が、

 わずかに仰け反る。


 その瞬間。


 レグルスが叫ぶ。


「団長!」


 巨体の背後から――


 影が跳んだ。


 団長だった。


 高く。


 竜種の頭上まで。


 剣が、

 真っ直ぐ振り上げられる。


 そして――


 振り下ろされた。


 とてつもない斬撃。


 一瞬。


 音が消えた。


 竜種の巨体が、

 そのまま崩れる。


 そして――


 背後の岩が、

 真っ二つに裂けた。


 静寂。


 皇子が呟く。


「……凄っ」


 レグルスも、

 思わず声を漏らす。


「凄いですね」


 団長は剣を肩に担いだ。


 豪快に笑う。


「ガッハッハ!」


「俺が本気を出せばこんなもんよ!」


「ガッハッハ!」





 舞い上がった砂が、ゆっくりと落ちていく。


 レグルスは、

 拳を下ろしていた。


 少し離れた場所で、

 リオラが固まっている。


「……やばっ」


 思わず声が漏れた。


 竜種は、

 地面に叩きつけられたまま動かない。


 だが――


 ゆっくりと、

 上体を起こした。


 巨体が揺れる。


 赤い瞳が、

 再びレグルスを見る。


 だが、

 もう唸らない。


 敵意は消えていた。


 竜種は、

 ゆっくりと後ろへ下がる。


 一歩。


 また一歩。


 距離を取るように、

 岩の影へ戻っていく。


 リオラが、

 恐る恐る近づいてきた。


 手綱を引いて、

 レグルスの馬も連れている。


「……大丈夫?」


 レグルスは何も答えず、

 馬に手をかけた。


 軽く跳び乗る。


 それから、

 岩の方を一度だけ見て言った。


「もう襲ってくることはないだろう」


 リオラは、

 まだ少し驚いた顔のままだった。


 それから、

 ふっと笑う。


「さすがねー」


 肩をすくめる。


「もっと苦戦するかと思ったけど」


 レグルスは答えない。


 ただ、

 神の爪痕の岩を見上げていた。


 ――前の魔獣は、

 もっと強かった。


 魔力が弱まったせいか……。



 視線が、

 岩の裂け目へ向く。


 神の爪痕。


 確かに。


 団長は――


 剣の神様だ。


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