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神の爪痕

「いやー、危なかった危なかった。」


「捕まったら、」

「しばらく出られないところだったよ。」


 リオラが笑いながら言う。


 馬は街道を進んでいた。


 王都を離れるにつれて、

 地面の色が変わっていく。


 砂が混じりはじめ、

 風が乾いていた。


 遠くには、

 低い砂丘がいくつも連なっている。


 レグルスが聞く。


「……いつも、ああなのか」


 リオラは肩をすくめた。


「まあね」


「一応、王族だからってことなんでしょうけど」


 前を向いたまま続ける。


「ずっと王都の中じゃ、楽しくないもの」


 街道は、

 砂の上に細く続いていた。


 踏み固められた跡だけが、

 まっすぐ遠くへ伸びている。


 リオラが手綱を軽く引きながら言う。


「神の爪痕までは、二時間くらいかな」


「この道ね」


 前方を指す。


「巡礼街道って呼ばれてるの」


「昔、太陽の王国の人たちが」

「神エクシリウスに会うために歩いた道だって言われてるわ」


 少しだけ笑う。


「本当に神様なんていたのか、わからないけど」


 レグルスは何も答えない。


 ただ、

 前へと続く道を見ていた。



 ――ここは。


 アウレリアの剣士たちが、

 魔王へ挑むために歩いた道。


 多くの剣士が、

 ここから先へ進み――


 そして、

 戻らなかった。


 帰らずの道。



 街道は、ゆるやかに砂の中へ続いていた。


 馬の蹄が、

 乾いた音を立てる。


 風が吹くたび、

 砂がわずかに舞った。


 しばらく進むと、

 二頭の馬の足取りが少しだけ重くなる。


 歩幅が、わずかに短くなった。


 レグルスは手綱を持つ手を、

 ほんの少しだけ動かした。


 魔力が流れる。


 目に見えるほどではない。


 だが、

 二頭の馬の動きが、わずかに軽くなる。


 呼吸が整い、

 足取りが戻った。


 その様子を見ていたリオラが言う。


「おっ」


 少し楽しそうに笑う。


「今日も調子いいわね」


 特に深く気にする様子もない。


 そのまま馬を進めた。


 街道は、

 ゆるやかに砂丘の間を抜けていく。


 時間が過ぎていた。


 太陽の位置が、少し高くなる。


 砂の色が、

 白く強く光り始める。


 リオラが前を見ながら言った。


「もう少しで見えてくるよ」


「大きい岩」


 手で遠くを指す。


「あれが神の爪痕」


 少し目を細める。


「ほら」


「ちょっと見えてきたでしょ」


 砂の向こう。


 地平線の上に――


 黒い影が、わずかに浮かび上がっていた。


 最初は、

 ただの岩の塊のように見えた。


 だが、

 馬を進めるにつれて

 その影は、

 ゆっくりと形を持ちはじめる。


 街道は、

 その岩の少し手前を横切るように伸びていた。


 真っ直ぐ進めば、

 岩のすぐ脇を通る位置だ。


 リオラが言う。


「本当はさ」


「回り道できたらいいんだけどね」


 肩をすくめる。


「そっちの方が危ないのよ」


 前方の砂地を指した。


「街道からそれると、流砂とかあるし」


 あっけらかんと続ける。


「まあ」


「たぶん、あなたくらい強ければ」


「すぐ倒せると思うけど」


 楽観的な口調だった。


 二頭の馬は、

 そのまま街道を進む。


 距離が縮まるにつれて、

 岩の全体が見えてくる。


 巨大だった。


 見上げるほどの高さ。


 城壁ほどもある岩が、

 砂の中から突き出している。


 そして――


 中央。


 岩は、

 真っ二つに裂けていた。


 まるで、

 巨大な刃で切り分けられたかのように。


 左右の岩壁が、

 わずかに離れて立っている。


 その裂け目は、

 街道の横、

 少し外れた場所に口を開けていた。


 レグルスの視線が、

 そこに止まる。


 ――これは。


 何かを思い出しかけたように、

 ほんのわずかに目を細める。


 リオラが振り返った。


「すごいでしょ?」


「神の爪痕」


 馬を止めながら言う。


「あれね」


「神エクリシウスが、人間に怒って」


「つけた痕なんだってさ」


 肩をすくめる。


「よくわかんないけど」


 それから、

 岩の根元を指した。


「魔獣はね」


「あの岩を巣にしてるみたいなの」


 少し目を凝らす。


「ほら」


「あそこ」


 岩の影。


 裂け目の下。


 砂の上に――


 巨大な影が横たわっていた。


 翼。


 角。


 長い尾。


 砂色の地面の上で、

 赤い鱗が鈍く光っている。


 竜種の魔獣だった。


 ゆっくりと、

 首が持ち上がる。


 巨大な瞳が、

 こちらを見た。


 レグルスは、

 その姿を見ていた。


 ――見覚えがある。


 心の中で、

 そう呟いた。


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