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受け継がれる血と意志

「堕英雄アンタレスによって滅ぼされた太陽の王国ですが」

「その王家の血筋は、完全に絶えたわけではありません」


 展示の前で、職員は淡々と語る。


「生き残った王家の末裔――」

「神話では“太陽の遺児”とも呼ばれていますが」


「その血統と」

「月の王国の王家が手を取り合い」

「現在のエクリシア王国が築かれました」


 一拍、置いて。


「太陽の王国の末裔が――」

「アウローラ・アウレリア様です」




 その名が、静かに落ちる。


 レグルスの視線が、

 ふと遠くを向いた。


 泣き声が、聞こえた。



 瓦礫の間。

 焼け落ちた石。

 倒れ伏した人影。


 その腕の中で、

 小さな声だけが、かすかに続いている。


 抱き上げる。


 軽すぎる重み。


 小さな腹元で、

 王家の紋章をかたどったペンダントが、

 揺れた。




「ほら」


 隣で、リオラの声がした。


 胸元から、細い鎖を引き出す。


 揺れる、小さなペンダント。


 同じ紋章。


 ——アウレリア。

 ——あの国の名。



「これ、うちの家の証なんだって」

「太陽の王国から受け継いだものらしいよ」


 誇らしげというより、

 どこか他人事のような口調だった。


 レグルスは、何も言わない。


 ただ、

 ほんのわずかに視線を落とす。


 あの瓦礫の中で、

 息をしていた王家の命。


 それが、今も続いている。


 声には出さない。


 表情も変えない。


 消えてはいなかった。



 博物館を出ると、外の光が少し眩しかった。


 石の回廊を抜ける風が、わずかに冷たい。


 隣を歩きながら、リオラが振り向く。


「どうだった?」

「少しは勉強になった?」


 レグルスは、短く答える。


「ああ」


 それだけだった。


 そのとき――


 足音が近づく。


 振り向くと、

 メルクが立っていた。


 昨日と同じ鎧姿。

 だが、表情は硬い。


 メルクは、深く頭を下げた。


「昨日は失礼をした」


 顔を上げる。


「アウローラ様の恩人と知らず、無礼を働いた」


 わずかに間を置く。


「……一つ、願いがある」


 真っ直ぐにレグルスを見る。


「私に、剣を教えていただけないだろうか」


 リオラが横から口を挟む。


「嫌だったら断ってもいいからね」


 レグルスは、少しだけ考え――


 首を振った。


「いや」


「引き受けよう」


 メルクの表情がわずかに動く。




 王国剣士団の訓練場。


 石畳の敷かれた広い空間。

 周囲には、訓練を止めた剣士たちが集まっていた。


 ざわめきは小さい。


 だが、視線はすべて中央へ向けられている。


 レグルスとメルクが向かい合う。


 互いに木剣を構える。


 距離は、まだ遠い。


 メルクは踏み込めない。


 わずかな沈黙。


 レグルスが口を開く。


「……来てみろ」


 その言葉で、

 メルクの迷いが消えた。


 地面を蹴る。


 一気に距離を詰める。


 木剣が振り下ろされる。

 乾いた音が響く。

 レグルスは、

 それを受け止めた。


 すぐに二撃目。

 三撃目。

 連撃。


 だが――


 すべて、受け止められる。


 レグルスは、

 一歩も動いていなかった。



 周囲に、小さなどよめきが広がった。


「やっぱりすごい」


 リオラが、感心したように呟く。


 その声を背に、

 メルクは後方へ跳んだ。


 石の床を蹴り、距離を取る。


 だが次の瞬間――

 その勢いのまま、再び踏み込んだ。


 横一閃。


 鋭く振り抜かれた木剣を、

 レグルスは受け止める。


 乾いた音が響いた。


 その瞬間。


 レグルスの足が、

 半歩だけ動いた。




 その動きが、

 古い記憶を呼び起こす。


 若い声が、笑っていた。


「腹立つわー」


「一歩も動かないのかよ」


 目の前で剣を振るうのは、

 アウレリア皇太子。


 赤い髪が、風を切る。


 連撃。


 だが、そのすべてを

 レグルスは受け止める。


 皇太子が舌打ちする。


「くそ……!」


 そのまま踏み込み、

 横に一閃。


 レグルスの足が、

 半歩だけ動く。


 レグルスは笑った。


「おっしいねー」


「でも、まだまだ足りない」


「もっと来な」




 記憶が、途切れる。


 目の前には、メルク。


 横一閃を受け止めたまま。


 次の瞬間。


 レグルスの剣が動いた。


 弾かれた木剣が、

 石の床に跳ねる。


 そして――


 刃は、

 メルクの喉元で止まっていた。


 静寂が落ちる。


 メルクは、息を吐いた。


 ゆっくりと頭を下げる。


「ありがとうございました」


「やはり、全く敵いませんね」


 顔を上げる。


「自分が強いと思っていたことが、恥ずかしい」


「アウローラ様にも」


「王国にも、申し訳が立たない」


 レグルスは、少しだけ首を振った。


「いや」


 言葉が一瞬止まる。


「アウレリアの――」


 わずかに目を細める。


「……太陽の王国の意志は」


「ちゃんと受け継がれている」


 メルクは、驚いたように顔を上げる。


 リオラは、

 その言葉に首をかしげていた。



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