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月の少女

 夜。


 部屋は、

 静まり返っていた。


 灯りは、小さい。


 影だけが、

 ゆっくりと揺れている。


 レグルスは、

 ひとり、椅子に腰を下ろしていた。


 何もしていない。


 ただ、座っている。


 ふと、


 言葉がこぼれる。


「……セレナリス」


 その名が、

 静かに落ちる。


 視線が、

 わずかに揺れた。


 ――お前の力は。


 低い声。


 誰かの言葉。


 ――恐ろしい。


 重なる。


 視線。


 沈黙。


 冷たい空気。


「その髪は何だ」


「銀色……」


「忌まわしい」


 向けられる目。


 逸らされる目。


 ――異端者。


 別の声。


 かすかに。


 混じる。


 ――違う。


 その声だけが、

 残っている。


 先生の声だった。


 そこで、

 途切れる。


 レグルスは、

 目を閉じた。




 朝。


 軽いノック。


 返事を待たずに、

 扉が開いた。


 リオラだった。


「おはよう」


 いつもの調子で言う。


「よく眠れた?」


 答えを待たずに続ける。


「じゃ、行きましょ」


 レグルスは、

 何も言わず立ち上がった。


 二人は部屋を出る。


 石の廊下。


 開けた回廊。


 朝の光が差し込んでいる。


「前に言ったでしょ」


 歩きながらリオラが言う。


「うちの反対側に、セレナリスの家があるの」


 視線の先。


 もう一つの城が見えている。


 アウレリアと対になる場所。


 二人はそのまま進む。


 聖地の外廊下を抜ける。


 やがて――


 一つの扉の前で、

 リオラが立ち止まった。


「たぶん、ここね」


 軽くノック。


 だが――


 返事を待たずに、

 そのまま扉を開けた。


 本の匂いが、

 わずかに流れる。


 壁一面の書棚。


 隙間なく並ぶ書物。


 中央の机。


 その前に――


 ひとりの少女が座っていた。


 長い黒髪。


 本を開いたまま、

 顔を上げる。


「おっ、いたいた」


 リオラが笑う。


「おはよう」


 少女が眉をわずかに動かす。


「リオラさん」


 静かな声。


「急に入ってこないでください」


「まあまあ」


 軽く手を振る。


「いいじゃない」


 そのまま、

 隣に立つレグルスを示す。


「紹介するね」


「ミヅキ・セレナリス」


 少しだけ間を置く。


「月の王家の末裔よ」


 ミヅキは、

 軽く会釈した。


 視線が、

 一瞬だけレグルスへ向く。


「こっちがレグルス」


 リオラは少し考える。


「うーん……」


「説明が難しいんだけど」


 すぐに笑う。


「訳ありの歴史好き」


「こう見えて、めちゃくちゃ強いのよ」


 ミヅキは、

 何も言わない。


 ただ――


 視線だけが、

 わずかに動く。


 銀色の髪。


 ――レグルスの。


 その奥にあるもの。


 揺れない魔力。


 測るように、

 静かに見ていた。


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