終わらせるために
リオラの寝息が、
小さく規則的に続いていた。
焚き火は、
もう弱くなっている。
赤い火が、
静かに揺れていた。
レグルスは、
ゆっくりと立ち上がる。
音を立てないように。
そのまま、
遺跡の外へと歩いた。
崩れた柱を抜ける。
砂に覆われた道。
かつての中央通り。
やがて――
街道へと繋がる場所に出た。
夜の風が、
静かに吹いている。
レグルスは、
顔を上げた。
西の空。
ひとつだけ。
強く輝く星があった。
他の星とは違う。
揺らがない光。
まっすぐに、
そこにある。
西導星。
かつては――
あれを目印に、
セレナリスへ向かったという。
そして。
魔王城が現れてからは、
あの星の先にあった。
レグルスは、
しばらくそれを見ていた。
その光が、
ゆっくりと記憶を引き寄せる。
まだ――
夜が明けきる前だった。
空は暗く、
星だけが残っている。
西の空。
強く輝く光。
あの星を、
目印にしていた。
「……俺たちが」
皇子の声。
静かに、
だが迷いなく響く。
「終わらせよう」
振り返ると、
皇子が立っていた。
その向こうに、
仲間たちの姿。
「魔王に怯える時代を」
誰も答えない。
だが――
足は止まらなかった。
レグルスは、
西の星を見る。
そして。
そのまま前を向いた。
魔王城へ。
あの星の先へ。
風の音が戻る。
夜の遺跡。
レグルスは、
ゆっくりと目を閉じた。
そしてーー
再び歩き出した。
遺跡の奥へ。
崩れた柱の間を抜ける。
砂に覆われた石の道。
だが――
足が止まる。
そこだけ、
様子が違っていた。
風化ではない。
石の壁が、
内側から抉られている。
柱は、
途中で断ち切られたように折れていた。
地面には、
深い裂け目。
そして――
剣。
折れた刃が、
いくつも残っている。
埋もれずに。
そのまま。
レグルスは、
静かに目を細めた。
――残っている。
魔力。
かすかに。
だが、確かに。
重い気配。
人のものではない。
あの時の――
記憶が、
引き戻される。
空気が変わった。
先生が、ふと足を止める。
わずかに眉を寄せた。
空気を探るように、
静かに息を吸う。
次の瞬間。
顔が上がった。
「……アウレリアへ向かっている」
遠くの空を見る。
「魔王の軍勢だ」
空は、
何もないように見える。
だが――
「上空から、気配を消している」
声がわずかに硬くなる。
「……かなりの数だ」
一拍。
「……もう」
「王都の手前まで来ている」
小さく吐き出す。
「すまない」
「気がつかなかった」
レグルスは、
すぐに言った。
「一旦戻ろう」
間を置かない。
「間に合うかもしれない」
だが。
皇子は、
首を振った。
「いや」
静かに言う。
「今からでは、間に合わない」
視線は、
前を見ていた。
魔王城の方向。
「――逆に、好機だ」
短く。
「今なら、魔王を倒せる」
レグルスは、
言葉を失う。
「お前……」
一歩、踏み出す。
「子どもが、生まれたばかりだろう」
皇子は、
少しだけ笑った。
だが――
その目は、
笑っていない。
「魔王城が現れる前」
静かに言う。
「この世界には、もっと多くの王国があったらしい」
一拍。
「残っているのは」
「アウレリアと、セレナリスだけだ」
風が吹く。
皇子の声は、
揺れない。
「俺たちの時代で」
前を見たまま言う。
「終わらせる」
誰も、何も言わなかった。
風の音が戻る。
遺跡。
夜。
レグルスは、
その場に立っていた。
……あの時――
俺は、戻らなかった。




