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残された壁画

 二人は、

 ゆっくりと遺跡の中へ歩き出した。


 砂に覆われた石の地面に、

 足跡だけが残っていく。


 崩れた石の道が、

 まっすぐ奥へ続いていた。


 中央通りだったのだろう。


 両脇には、

 折れた柱が並んでいる。


 かつては高い建物が

 並んでいたらしい。


 今は――

 ほとんどが崩れていた。


 石像の残骸。


 砕けた壁。


 倒れた柱。


 風に削られ、

 角の丸くなった石。


 だが――


 それだけではない。


 ところどころに、

 明らかに破壊された跡が残っていた。


 壁が、

 内側から吹き飛んだように崩れている。


 石の床には、

 大きな裂け目が走っていた。


 剣が、

 砂に半分埋もれている。


 柄は朽ち、

 刃だけが残っていた。


 さらに数歩進むと、

 折れた刃が転がっている。


 別の場所には、

 盾の残骸。


 そして――


 また剣。


 リオラが立ち止まる。


「……やっぱり」


 少しだけ声が低くなる。


「ここ、剣の国だったのね」


 レグルスは何も言わない。


 ただ、

 静かに周囲を見ていた。


 リオラは荷袋を開き、

 一つの石を取り出した。


 小さな石だった。


 淡く光っている。


「これ」


 手のひらの上で転がす。


「魔光石」


 石は、

 ほんのり青く光っていた。


「光になるだけじゃないのよ」


 リオラが言う。


 石を少し掲げる。


「残ってる魔力にも反応するの」


 魔光石の色が変わる。


 青。


 次の瞬間、

 わずかに赤。


 そしてまた、

 別の色。


 リオラが眉をひそめる。


「……不思議なのよね」


 魔光石を見つめる。


「場所によって色が違うの」


 石はまた、

 別の色に光った。


「色んな魔力の痕跡があるのよ」


 リオラは肩をすくめる。


「普通の遺跡って、

 だいたい同じ反応になるんだけど」


 魔光石を軽く振る。


「ここ、

 ばらばらなの」


 少しだけ笑う。


「まあ」


「それが面白いんだけどね」


 それから、

 くるりと振り向いた。


「そうだ」


 指を奥へ向ける。


「先に見せたい場所があるの」


 崩れた建物の奥。


 石の壁が、

 まだ形を残している場所だった。


「壁画」


 少し楽しそうに言う。


「前に来たとき、

 ちらっとしか見てないのよ」


 足取りが少し軽くなる。


「ちゃんと見たかったの」


 リオラはそのまま歩き出した。


「こっち」


 レグルスも、

 静かに後を追った。


 砂の上に、

 二人の足跡だけが続いていく。


 崩れた建物の奥。


 屋根は落ちている。


 だが――


 壁面だけは、

 かろうじて立っていた。


 リオラが指をさす。


「これ」


 石の壁には、

 浅い彫刻が残っていた。


 壁画だった。


 風に削られ、

 ところどころ欠けている。


 それでも、

 何が描かれているのかは分かる。


 剣を持った人影。


 何人も。


 そして――


 巨大な影。


 人ではないもの。


 リオラが言う。


「これがね」


「有名な壁画」


 壁に近づく。


「昔の人たちが、

 神に会うために巡礼してる様子って言われてるの」


 指でなぞる。


 剣を掲げる人影。


 その先にある、

 巨大な影。


 レグルスは黙って見ていた。


 リオラは肩をすくめる。


「でもさ」


 少しだけ首を傾げる。


「私、これ」


「巡礼には見えないんだよね」


 レグルスは答えない。


 視線だけが、

 壁画を追っていた。


 その隣。


 少し新しい彫刻がある。


 同じような構図。


 だが――


 人物は四人。


 先頭に立つ一人。


 その後ろに三人。


 四人が並んで、

 巨大な影へ向かっている。


 リオラが言う。


「こっちはね」


「堕英雄アンタレスと三英雄、そして神」


 リオラは壁画を見上げた。


「アンタレスの裏切りの場面って言われてる」


 レグルスの視線が止まる。


 壁画の人物を、

 しばらく見つめていた。


 その瞬間――


 記憶が揺れた。




 石の壁。


 まだ新しい彫刻。


 削りたての跡が残っている。


 レグルスが腕を組む。


「……俺がこれ?」


 壁画の最後尾。


 少し小さく彫られた人物。


 皇子が笑う。


「まあ壁画の感じとかあるじゃん」


 レグルスが壁画を見たまま言う。


「なんで皇子が先頭で、

 一番カッコいいんだ?」


 壁画の中央。


 剣を掲げている人物。


 どう見ても主役だった。


「不公平だろ」


 皇子が肩をすくめる。


「これくらいいいだろ」


 壁画を指さす。


「ここアウレリアよ?」


 少し胸を張る。


「ここの皇子だよ、俺」


 皇子は少し真面目な顔になった。


 古い壁画を見る。


 剣士たち。


 巨大な影。


「魔王の城が現れたのは、

 もう何百年も前らしい」


 静かに言う。


「ここから、

 何人もの剣士が挑んだ」


 壁画の剣士を指す。


「みんな倒れた」


 それから、

 新しい壁画を見る。


「だからさ」


 少し笑う。


「俺たちのも、残しておこうと思って」


 レグルスは壁画を見る。


 そして、ぼそりと言った。


「……不吉だな」




 風が遺跡を吹き抜ける。


 レグルスは、

 壁画を見上げていた。


 リオラが言う。


「変よね」


 古い壁画を指す。


「これが巡礼」


 次に、

 新しい壁画。


「こっちはアンタレスと神の場面」


 首を傾げる。


「私には」


 少し声を落とす。


「そうは見えないんだけど」


 それから、

 ぱっと笑う。


「まあ」


「やっぱり自分の目で見るのが一番よね」


 くるりと振り向く。


「行こ」


 また歩き出す。


 レグルスも、

 静かに後を追った。



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