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懲役千年

本日より新作です。

毎日更新予定です。

 懲役一千年に処す。


 低く、よく通る声だった。

 感情はなく、判決を告げるためだけの声音。


 石造りの法廷に、わずかなざわめきが走る。

 誰かが息を呑み、誰かが視線を伏せる。

 だが、それもすぐに静まった。


 被告――勇者レグルス。

 アウレリア王国への救援要請を受けながら、これを退けたこと。

 魔王討伐を優先し、その結果として王国が滅亡したこと。

 同行していたパーティが、全員戦死したこと。


 賢者。

 将軍。

 王国の要人。


 守られなかった名が、淡々と読み上げられていく。


 レグルスは、俯いたまま動かなかった。

 弁明は求められていない。

 あるいは、最初から必要とされていなかったのかもしれない。


「以上をもって、判決は確定とする」


 木槌が打たれる。

 その音を合図に、法廷の空気がわずかに緩んだ。


 列席していた国の要人たちは立ち上がり、互いに視線を交わすこともなく、静かに退廷していく。

 誰も、被告の方を振り返らなかった。


「……あれを、そのままにしておくわけにはいかない」

「危険すぎる」

「英雄ではない。災厄だ」


 歩きながら、抑えた声が交わされる。


「殺せるなら、もう殺している」


「だが、誰にもできない」


 その言葉に、誰も反論しなかった。


 やがて法廷には、数人の執行官と魔術師だけが残る。


 十人以上。

 一人ひとりが間隔を取り、円を描くように立つ。


 詠唱が始まる。


 拘束。

 抑制。

 封印。


 重ねられるたび、空気が重くなる。

 魔力が削がれ、身体の感覚が鈍っていく。


 それでも、レグルスは抵抗しなかった。

 視線を上げることもなく、ただ立っている。


 鎖がかけられる。

 触れた瞬間、力が抜ける。


 地下へと続く階段は、長く、暗い。

 松明の光が揺れ、石壁に影が伸びる。


 足音だけが響く。


 途中、いくつもの扉を通過した。

 どれも厚く、重く、簡素だった。


 最深部。

 空気が変わる。


 独房は、何もない空間だった。

 寝台も、机もない。

 ただ、冷たい石の床と壁。


 レグルスが中へと押し入れられる。


 扉が閉じる。


 鈍い音が、短く響いた。


 続けて、封印が施される。

 魔術式が刻まれ、光が走り、そして消える。


 外界の気配が、完全に断たれた。


 そこには、時間を測るものも、外を知る手がかりもない。

 光も、音も、変化もない。


 レグルスは壁にもたれ、ゆっくりと腰を下ろした。

 目を閉じる。


 呼吸は、穏やかだった。


 やがて、世界は沈黙する。


 何度か、

 封印の重みがわずかに変わった気がした。


 それが何年後のことだったのか、

 レグルスには分からない。



 ――千年後。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


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