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ひみつな2人  作者: 茉莉多 真遊人


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4/8

薔薇色はどんな色?

当時のお題「薔薇色」

登場人物紹介

樋口(ひぐち)光也(みつなり):薄茶の瞳でボサボサ黒髪の男の子。落ち着いた口調で話す。

飛騨(ひだ)満菜(みつな):焦げ茶の瞳で黒髪セミロングの女の子。男性っぽい口調で話す。

 初夏の季節。


 とある普通高校の教室。


 放課後もずいぶんと時間が経ってそろそろ夕日が部屋に差し込む頃、静かな教室にいたのは女の子1人と男の子1人だけで他には誰もいなかった。


 2人は隣り合うように座っている。


「樋口くんに問おう! 人生、薔薇色と言う言葉があるが、はたして薔薇はどんな色だと思う?」


 突然、女の子が前のめり気味な体勢になりながらも人差し指をピンと立てて、静けさを打ち破るように不思議なことを呟き始めた。


 女の子の名前は、飛騨(ひだ)満菜(みつな)。彼女はアイボリー色のポロシャツに灰色を基調としたチェック柄のスカートといったブレザータイプの高校らしい制服の夏服を着こなしている。


 彼女は綺麗な顔立ちにセミロングの艶のあるさらさらとした黒髪で、ツリ目がちな目の中にある焦げ茶色のつぶらな瞳をキラキラさせて、頬杖を突きながら彼女のことを見ている男の子を見つめ返していた。


「薔薇の色ですか? ふむ……そうですね。別の色で言い表すのであれば、深みのある赤、少し暗めな赤、赤の原色よりも黒みがかっている、とかでしょうか」


 飛騨の唐突な呟きにもまるで動じずに、少し難しい表情を浮かべた後に、いくつかの言葉を丁寧に返している男の子の名前は、樋口(ひぐち)光也(みつなり)


 彼は男子高校生でも中性的な顔立ちをしており、ボサボサで癖の強いうねりを伴った黒髪が、どこか寝ぐせの直らない幼い子どものように映る。


 彼の制服は薄青色の半袖ワイシャツに、女子と同じ灰色を基調としたチェック柄をした長ズボンだった。


「ふむ。たしかに、一般的にはそれらしい色が、いわゆる薔薇色だと呼ばれるのだがな……」


 飛騨は樋口の返答に頷きつつも、眉根を下げて、口をへの字にし始める。


「おやおや、飛騨さん、言葉と表情がちぐはぐですよ。もったいぶらずに、何を考えたのかを教えてくれませんか? 飛騨さんの考えを知りたいです」


 もちろん、樋口は飛騨の表情から納得されていないことを理解し、また、彼女が何を考えているのかが気になって、彼女からの次の言葉を待つように、頬杖をついたままで穏やかな応対を続ける。


「ふふふ。では、これを今日のひみつ研究同好会のお題としよう」


「なるほど。今日のひみつ研究同好会はお喋りメインですね?」


 ひみつ研究同好会。


 この2人は高校で出会い、お互いに苗字と下の名前から「ひ みつ」と言うことで秘密研究同好会という集まりを飛騨の方から発足した。なお、飛騨も樋口も同級生であり、同好会に部費は出ないため、言わずともただの放課後仲良し倶楽部である。


 これまでの活動は基本的に放課後に勉強したり、お喋りしたり、図書室の本を読み合ったり、一緒に帰ったりという学生らしい過ごし方をしているだけで「秘密」という言葉に関する活動はほぼ皆無だった。


 なお、同好会の会員は2人だけであり、正式名称は「秘密」と漢字だが、2人の間では「ひみつ」とひらがなのイメージで通っている。


「お喋りとは心外だな。まあ、ちょっとした言葉遊びに興じるだけだ」


「そう言うのをお喋りと言うんですよ」


「ん? 樋口くんは、私とのお喋りは嫌かな?」


「いえ、むしろ、僕は飛騨さんとのお喋りがしたくてたまりませんね」


「ふふふ。そうだろうとも。私もそうだからな」


「僕たちはいつも見解が一致していますね」


 普通なら恥ずかしくなるような会話であっても、飛騨も樋口もごくごく自然体でくすりと笑い合って続けられている。


 飛騨と樋口はいわゆる両片思いの関係にあり、互いに特別な感情を持っているものの、この距離感に安心しているためか、2人の仲の良さを示すと同時にどこか性別を感じさせない悪友どうしのような中途半端な雰囲気を醸し出していた。


「さて、では、本題だ。薔薇は何万種類もあるというじゃないか」


「たしかに、そのようですね。薔薇は原種と呼ばれるものこそ200程度とのことですが、交雑種、つまり、数多くの交配によって様々な品種が作られていますし、今後も増えるのではないでしょうか」


 樋口は手のひらサイズのスマホを眺めながら飛騨の言っていたことを確認している。


「で、だ。さらには、色もいろいろとあるだろう? 鮮やかな赤はもちろんのこと、ピンク、イエロー、グリーン、オレンジ、ブルー、ブラウン、パープル、ブラック、ホワイトなどと、朝の戦隊もののヒーローよりも色が多いじゃないか」


 飛騨が両手で薔薇の色を指折り数えて、たくさんあるじゃないかと言わんばかりに樋口にその両手を見せつけた。


「おっと、飛騨さんの口から特撮の話が出るなんて、そっちの方がびっくりですが、なるほど。飛騨さんの言いたいことがようやく読めてきました。つまり、薔薇色とは言うものの、薔薇にはさまざまな色があるから、本当はどれが薔薇色か分からないということですね?」


 樋口がスマホを閉じて、飛騨との会話に集中しようとしたその時、飛騨の人差し指が樋口の唇にそっと触れた。


 急に無音となった教室は、やがて時計の音ばかりがやけに聞こえるようになる。


 樋口は突然の柔らかな指の感触に嬉しさ、驚き、片思いらしいドキドキなどが綯い交ぜになった感情で胸がいっぱいに満たされていた。


「樋口くん、ちょっと違うぞ? たしかに言ってくれたように薔薇にはいろいろな色がある。そこで私が言いたいのは、薔薇色は1つに決まらないということだ。薔薇にいろいろな色があるように、人生薔薇色という言葉は、いろいろな人生を表せるのではないか、ということだよ」


 飛騨は樋口の唇に当てていた指を振り回して、得意げに自身の薔薇色への解釈を語り始める。


 樋口は消えた感触に一瞬だけ少し残念そうな表情をするも、飛騨に悟られないように必死でにこやかな笑顔に戻した。


「それは面白い解釈ですね。なるほど。人生薔薇色という言葉は良い意味で使われることが多いですが、あまり良くないことも起こりうるということですね」


 樋口が飛騨の言葉に対する自分の解釈を告げると、飛騨が瞳を上の方へと動かして難しそうな顔をしつつ、指を自分の口に当てて考え込み始める。


 再び教室が無音へと変わっていく。


「ふむ、それもちょっと違うな」


「……おっと、違いましたか」


 飛騨はしばらくしてから、ニマニマニマっと笑って樋口にイタズラっぽい笑みを送る。


「私はこう思っていたんだ。人生薔薇色、つまり、幸せの形や状態、結果というものは人それぞれ色があるのじゃないかなってね」


 飛騨の言葉に、樋口は思わず首を縦に振る。彼は自身のネガティブも含めた悲喜こもごもという意味ではなく、いろいろな良さがあるという意味で捉えた彼女に素直な感心した。


 それと同時に、飛騨の人差し指が再び宙で円を描き始めたので、樋口は再び自分の唇に触れて来ないだろうか、自分の間接キスを受けられるのではないかと期待し始める。


「とてもよい表現だと思います。たしかに、幸せはいろいろありますし、人それぞれですからね」


「ふふふ。そうだろう? であれば、どんな色であろうとも人生薔薇色ということだな」


 樋口が飛騨の言葉を「とてもよい表現」と言い表したため、彼女はとてもご機嫌な様子で彼に満面の笑みを返している。


 その彼女の顔を見て、樋口は嬉しそうに笑みを返す。


「では、飛騨さん。ちょっと話がズレるかもしれませんけど、1つ聞いてもいいですか?」


「ふふっ。水くさいな、私と樋口くんの仲じゃないか。何でも聞いてくれてもいいぞ。ただし、スリーサイズはまだ秘密だっ!」


 樋口の言葉に、飛騨が自身の身体を撫で回しながらスリーサイズを示す胸、腹、尻へと順番に手を動かしていく。


 樋口はスリーサイズと聞いて、飛騨の身体を注視してしまい、次第に自分の顔が赤くなっていくことを感じた。


 飛騨はその狼狽えた様子の樋口に少し満足げである。


「いえ、それは聞かないですけど」


「む……なんだ? 私のスリーサイズなんて、知りたくないとでも言うのか?」


 樋口がほんのりと赤面をしている一方で、飛騨はどうやら彼を自分の思った方に誘導できなかったようで眉間に若干シワが寄り、口を尖らせて不満そうに彼をじぃっと見つめる。


「僕も男ですからもちろん知りたいですけど、秘密なのでしょう? それとも教えてくれるのですか?」


「まあ、まだ秘密だ」


 飛騨は口元に手を当てて、首をゆっくりと横に振った。


 樋口から見て自分だけでなく、彼女も若干赤面になっているように見えた。彼女の反応に、彼は「教えてくれるのですか」まで言ったことがまずかったと勘違いする。


「では、聞かないですね。僕は無理強いして、飛騨さんを困らせたくはないですから」


「ふむ。樋口くんはいつも紳士だな。2人きりでも本当に安心で、眠ってしまいそうだ」


 飛騨は表情を不満そうにしたまま、「安心」という言葉をまるでまったく思ってもいないかのように少し浮かない顔で口にした。


「今少し不安そうな顔をしていると思っていましたが、安心してもらえているようで何よりです。さて、話を戻すと、僕が聞きたかったことはですね。飛騨さんは自分の人生の薔薇色は何色だと思いますか?」


 樋口は飛騨の口から「安心」という言葉を聞けて嬉しかったものの、どこか彼女が不安そうにもしているようにも見えて、やはり「教えてくれるのですか」が二人きりでいることへの不安を掻き立てたのだと想像し、もっと控えめにして安心させないといけないと心に誓っていた。


 このちょっとした思いのズレを、樋口と飛騨だけではまだ直すことができない。


「ふむ。人生の薔薇色か……すまない、正直、まだピンと来ないな」


「そうですか。分かったら教えてもらえますか」


「もちろんだとも。しかし、どうして私の薔薇色が気になったのかな? 私の色に染まりたい、とかかな?」


「ええ、僕も飛騨さんと同じ色がいいなと思うから、ですね」


「あはははっ…………はひゃ!? しょう……こほん……そ、そうか! 私も樋口くんと一緒の色なら心強いな。ぜひとも一緒の色にしていきたいものだ」


 もはや告白どころかプロポーズと言っても差支えのない樋口の言葉に、飛騨はもちろん目を真ん丸にして狼狽える。


 その後、会話の続かなかった2人は、お互いに見つめていた視線をすっと窓の外に移してしまう。


「おっと、話している間に、空が先ほどよりも赤く、赤色のようになってきましたね」


 樋口が言外にそろそろひみつ研究同好会の本日の活動を終わらせようと飛騨に伝えていた。


「そうだな……あ、そうだ」


 飛騨もそれに了承したのか首を数回縦に振るも、途中で何かに気付いたようで、ごそごそと自身のカバンの中をあさってポケットティッシュを取り出す。


「ティッシュで……折り紙……ですか?」


 樋口が不思議そうな顔をして、飛騨の動向を眺めていると、飛騨がティッシュを袋から数枚取り出して、折り紙のようにティッシュを折り曲げたり重ねるように組合せたりし始めた。


 やがて、できあがったのは一輪の薔薇だった。


「ふふっ。では、最後に薔薇にちなんで、樋口くんにこれをプレゼントしよう」


「ティッシュでできた薔薇ですか。オシャレですね。たしか白い薔薇は『尊敬』という花ことばですよね。飛騨さんが僕を尊敬してくれているなんて嬉しいです。僕も飛騨さんを尊敬していますよ」


 樋口が微笑みながらティッシュの薔薇を飛騨から受け取って、くるりくるりと薔薇を回して愛おしそうにそれをじっと見つめている。


「赤い夕日に照らされているのだがな」


 飛騨はぼそっと呟いた。


 樋口には聞こえないほどの音量だ。


 飛騨は、ティッシュの薔薇が夕日に照らされて赤い薔薇になっているのだと、伝えることができなかった。


「ん? 何か?」


「いや、作るのに時間がかかってすまなかった。そろそろ最終下校時刻だ。今日はここで終わりにしようか」


「そうですね。今日はこの薔薇がもらえてとても嬉しかったです。ずっと大事にします」


 こうして、樋口と飛騨のひみつ研究同好会の活動は今日もつつがなく終わることになった。


 なお、赤い薔薇の花ことばは「情熱」そして「あなたを愛しています」である。

ご覧くださりありがとうございました。

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