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第7話:荒野の盟約の果て

 リフローダ王国の北東。険しい山々が低く脈打ち、乾いた風が峡谷を駆け抜ける。

 その地、枯れた荒野とも呼ばれる土地に、重なり合う影が立っていた。


 護衛騎士としての任務を帯び、アステリア・フォースター侯爵令嬢とタカシ・シラカワは、王室より特命を受けて馬車を降りた。


「ここが…荒野の地か」

 タカシがつぶやく。


「ええ。王国北部、かつて魔法種の飛翔演習場だった場所。今は使用を控え、荒廃しています」


 アステリアは黄土色に染まる地面を見渡しながら言う。

 この地に、リフローダ王国はある盟約を結びに来た。王宮の指示だ。

 それは――隣国カルザニア連邦との秘密協定の締結。


 カルザニアは、情報・諜報部門を強みに持つ連邦国家。近年、リフローダとの間で“転生者と竜種”という新たな魔法技術の共同研究が議題に上がっていた。

 だが先だってエイラの諜報活動から明らかになったように、互いの信頼はまだ薄い。


「まずは、この地で儀式を行います」

 アステリアが馬車を降り、砂礫の上に簡素な魔法陣を描く。

 タカシが傍らで警戒を固める。


「この荒野を『共用実験区』と定め、両国の魔力探査と竜種調査を共同で行う――というものです」

 アステリアの声には、僅かながらも緊張が混じっていた。


 やがて、カルザニア側の代表が姿を現す。

 黒マントを翻し、堂々と歩く男。情報部のトップであり、先日アステリアが追い詰めた侵入者と同じ組織の高官だ。


「侯爵令嬢、護衛騎士殿。御苦労だ」

 彼の声は低く、ひんやりと響いた。


「この荒野を共に守ることで、我が連邦との信頼も築きましょう」

 男が笑みを浮かべる。だが、その瞳は笑っていない。

 アステリアは魔法陣の中心に立ち、静かに結晶石を掲げた。


「リフローダ王国・王立学園・魔法研究所、アステリア・フォースター。誓います。この荒野を、そしてこの国を、守ることを」

 結晶石が淡く光る。

 男も一歩前に出た。

「カルザニア連邦・情報部長ヴォルテス。私も宣誓します。この共用実験区を、研究の未来に活用することを」


 互いに軽く礼をとった。

 合図とともに、魔力の波が荒野を包んだ。砂ホコリと微かな魔力の残響が空に舞う。

 儀式は一見、成功に終わったかのように思えた。

 しかし。

 タカシの剣先が地に反応を示した。


「令嬢、こちらを…」

 タカシが指をさした先には、小さな光の点。

 転移魔法の残滓だ。


「…っ、まさか、また」

 アステリアが眉をひそめる。恐れていた事態ともいえる。

 カルザニア側が共同を装いながらも、密かに実験区から魔法種や転移回路を収集していた可能性が浮上した。


「この盟約、真の協定とは言えないかもしれません」

 アステリアが低くつぶやいた。

 ヴォルテスの笑顔がふと歪んだ。


「侯爵令嬢、護衛騎士殿。これからが本当の出発だ。」

 その声は、荒野の風に消えていった。


 荒野に吹く風が、魔力の名残をさらっていく。

 アステリア・フォースター侯爵令嬢は、視線を魔法陣の跡に落としたまま微動だにしない。

 転移魔法の残滓がこの地に残されていたという事実は、先ほど交わされた盟約の誠実さに疑義を呈するものであった。


「――カルザニア、やはり完全には信用できないか」

 隣で剣に手を添えるタカシ・シラカワの声音も、乾いていた。


「まだ、断定はできません。ただ……少なくとも、ヴォルテスはこの転移痕を知っていた」

「証拠が要るな。魔法陣の書き手を特定できれば」

「ええ。王国魔法研究所の“軌跡抽出術”なら、使われた魔力の個体特性を調べられるはず」


 ――軌跡抽出術。過去に使われた魔法痕跡を、使用者の魔力周波数ごとに再構築する、極めて高度な術式だ。

 この術が使えるのは、現在の王国でも上級魔法士数名に限られている。

 そしてその中の一人が――

「王都へ戻るのか?」

「いいえ。王立魔法研究所の支局が、この近くの岩窟にあります。そこに行きましょう」

 アステリアが軽く指を振ると、転送印の刻まれた魔石が地面からせり上がる。

 馬車の護衛隊に短く指示を出し、二人は魔力ゲートを潜った。



  王立魔法研究所「ミスト・アーカイヴ」 北東支局は山の中にある。


 岩肌を刳り貫いて築かれた研究所は、外から見ればただの古びた山寺に見えた。

 だが中は、青白い魔光に照らされた巨大な魔法円形書庫と実験場。


「ようこそ、お嬢様。久しぶりですね」

 迎えに現れたのは、白衣に身を包んだ中年の魔導学士。

 スラリとした長身に、厳格そうな眼鏡をかけたこの男こそ。


「イグナーツ先生、軌跡抽出術を依頼したくて参りました」

「ふむ。何やら国家間の臭いがするな。だが、アステリア嬢の頼みなら断れまい」


 イグナーツは短く咳払いし、魔導盤に手を翳す。

 すぐに抽出術式が展開され、淡い青光が魔法円を満たしていく。


「……これは」

 タカシが息を呑む。

 再現された魔力軌跡は、まるで“鍵”のような複雑な符号を描いていた。

 それはリフローダ王国の魔法技術体系ではない……。


「カルザニア連邦の旧式暗号術式、『ガロス転位式』です。しかもこれは、軍用のものですね」

 イグナーツが苦々しく呟いた。


「ヴォルテス……。本当にこの地で、軍事転移を?」

 アステリアの言葉に、タカシが首を横に振る。

「違う。これ、“転送”じゃない。召喚だ」

「!」


 凍りついた空気の中、再構築された魔法図式が刻むのは竜種の名。

 カルザニア連邦が隠し持っていた、魔法生物の一種。


「まさか、荒野の下に……」

「竜を、隠している」


 その時だった。

 研究所の上空にから響く。

 バァアアアアアアア――――ンッ!!


 轟音とともに砂塵を巻き上げ、黒い影が空を裂いた。


「なっ!」

 タカシが咄嗟に剣を抜く。

 見上げた空に浮かぶ、黒翼竜ナイト・ウィルムの影。


 竜種だ。しかも、完全体に限りなく近い。

 その背に、黒装束の騎士が乗っていた。


「王国の小娘よ。手出し無用と申し上げたはずだ」

 響く声――ヴォルテスだ。

 盟約は表の顔。

 本当の目的は、竜種の覚醒と、軍事利用。


 アステリアは静かに言った。どこか悟ったような眼差しをして。


「タカシ、竜の翼を封じる準備を」

「了解。アステリア様、魔法支援を」


 風が渦巻き、砂を巻き上げる。

 黒き竜が、炎を吐く直前。


「鎮翼結界・第参式――封!」

「斬風翔裂!」


 二人の連携魔術が、空を貫いた。

 戦いの火蓋が、今、切って落とされる――!


Q:あのお、敵の偉い人の名前って、まさか……

A:5人の仲間のアニメ、好きだったので


お読みくださいまして、ありがとうございます!!

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