第15話:竜種の帰還、議会の怒号
夜明け前の王都〈ルミア〉。
空が薄紫に染まる頃、王宮の議事堂に轟音が響いた。
「──議場、暴動発生!」という宮廷侍従の叫びとともに、貴族・平民・魔導師たちが慌てて立ち上がる。
そこに姿を現したのは、暴走を逃れた竜種──ハーフ・ドラゴンのアリオスである。
蒼い瞳と白銀の翼をひるがえし、議事堂の大窓を突き破って飛び込んできた。
闇と魔力の気配を撒き散らしながら。
「何故、ここに!?」
王子 アドラッド・リフローダ が叫ぶ。
「私を物扱いにするのか」とアリオスが唸る。
もはや、誰も止められない。
アステリア・フォースター は、タカシ・シラカワ の隣で立ち尽くし、静かに詠唱を始めた。
「盟約の楔」
紋章魔法が彼女の手から広がり、アリオスと観衆の間に壁を形成する。
アステリアが声を張り上げた。
「王国はもはや、竜種を兵器とせず、共生のパートナーとする国となります!」
議場には一瞬の静寂が訪れ、しかしすぐに抗議の声が沸き起こる。
貴族代表が激しく議論を始めた。
「そんな甘いことを言っておいて、条項VII A を撤回できるのか!」
「我が国の防衛力をどうするつもりだ!」
そのとき、アリオスがゆっくりと羽を折り、落ち着いた声で言った。
「私は、誰かの所有物ではない。真の契約者が、私を呼んだから来た」
アステリアの胸がざわめく。
議会が混乱する中、タカシがアステリアの手を軽く握った。
「令嬢、覚悟は決まってるか?」
「ええ。たとえこの国が、私を『ぽってらぽってらの丸い令嬢』と揶揄しても」
アステリアは微笑んだ。
アステリアの笑顔に呼応するかのように、ハーフドラゴンのアリオスは大きく翼を広げる。
そして。
議場の天井を突き破って飛び出していった──
その姿を見送るアステリアは、静かに呟いた。
「今、守護の旅が、真に始まるのです」
タカシは笑う。
闇を吹き飛ばすかのごとく。
「どこまでも、ついて行きます。護衛騎士として」
二人の果てない旅路は続く。
第一部 完
【魔法の補足】
リフローダ王国における魔法は、以下の三体系に分類される。
1.精霊系統
自然現象や元素を操作する系統。火・水・風・土の四大精霊魔法が中心。
高位になると氷結・雷撃・重力・毒素などの派生魔法も使える。
2.紋章系統
術者の血筋や契約に基づく、刻印を介した魔法。
アステリアが用いる法術や、川底の結界などがこれにあたる。
3.転移系統
空間・時間・座標に干渉する、危険で高度な魔法。
通常は国家間で規制されており、許可なしに使用すると重罪。
Q:第二部って、あるのか?
A:猫神様のご機嫌次第でしょう。
これにて第一部完となります。
お付き合いくださいました皆様、心より御礼申し上げます。
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