第7話 【唐突】偵察部隊
先週末の日曜は家で何もせず過ごして、月曜火曜と平穏な日々を送り、水曜日になった。
昼休みになるまではなんの変哲もない時間を過ごしていたのだが――。
「ガヤっ、来たよっ!」
俺が一人で弁当を食べようと包んでいる布を解く瞬間、教室のドアから顔を出して俺を呼ぶ茅根がいた。
距離にして2メートルほどとは考えられないほどの大声に、教室中から俺にも茅根にも視線が集まっている。
「茅根、どうしたんだ? 部活のこと?」
「いやいや、全く関係ないよ。ガヤと昼を食べようと思ってた来ただけ」
「あぁそうか。……って、なんで?」
至極当然という風に返すから一瞬スルーしそうになったが、一度も俺たちは一緒に昼食を共にしたことがない。
何か目的があるのではと不安で、俺は茅根に疑問をぶつけた。
「それはね……、おいで――」
「こんにちは、来ちゃいました」
茅根がドアの方に手招きする仕草をすると、恐る恐るの足取りで、でもニカっと微笑んだ雫が教室に入って来た。
右手には弁当箱が入っているらしき巾着袋をさげている。
余計にどういう訳なのか分からなくなる。
「ガヤの席、ここだよね?」
茅根は俺に確認を取るが、返事を待たずに前の席のイスを反対に向けて座った。
「シズちゃんはここに座ったら良いよ」
「はいっ、ありがとうございますっ」
「そんな勝手に……」
別に良いのだが、クラスが違うのに我が物顔をする茅根に若干引きながらも、俺も自分のイスに座った。
俺の正面に茅根が、俺の左側に雫がいる形になっている。
すると急に雫が、耳元すれすれ――ぶつかりそうになるぐらい顔を近づけて来た。
そして喋りだすから、耳に息がかかってしまい、少しこそばゆい。
「掛田先輩ってどこにいますか?」
「掛田さん?」
「そうです。私、先輩に聞いてから、ずっとどんな人なのか気になってるんですっ」
なるほど。
二人がこの教室にやって来た訳はこれか――。
まぁ、俺が持ちかけた話のせいだから責めることはできないし、責める理由もないな。
「真ん中らへんで二人で食べてる人達の、向こう側にいるのがそう」
「どれどれ――」
廊下側を向いて座っているから、身体と首を90度回して探す雫。
そして見つけたのか、今度は俺の方を見て来た。
「今、ワッフル食べてる人ですよね」
「あぁそうだ」
「ふんふん。茅根先輩の言うとおり可愛い子ですね」
「シズちゃんもそう思うよねっ」
「……」
ここで共感するのは何だか気まずくて、無視をしてしまう。
「先輩にはもったいないくらい……」
「うんうん」
確かにそうかもしれないが、そんなに頷かないで欲しい。
実際、俺もそう思うところは有り余るほどなのだ。
なんで俺なんかを――と、掛田さんを意識するたびに考える。
「でもこの向きじゃちょっと見づらいです――」
「そんなに見るもんじゃないと思うが……」
「なので、割ヶ谷先輩の隣に行かせてもらいますね」
そう言って、雫は俺の真隣にイスを移動させ、俺と同じ方向を向いて座り直した。
俺たちは、おのおの昼ご飯を食べていく。
夏実は時々チラッと掛田さんの様子を伺って、雫は一口食べるごとに掛田さんを一瞥する。
雫が見過ぎではないかと思い、掛田さんに俺たちの視線がバレていないか確認したくて、俺も何度か掛田さんを見る。
……。
…………。
………………。
なんだかおかしい。
俺が掛田さんを見るたびに、掛田さんと目が合ってしまいすぐに逸らされる。
先週から今日まで、視線を感じることは度々あったのだが、ここまで見られるのは初めてだ。
「掛田先輩、すごくこっちを見て来てません?」
雫も流石に違和感を感じ取ったのか、俺に聞いてきた。
「いつもこんな感じなんですか?」
「いや、いつもはここまでじゃないんだが……」
今日の俺の違うところと言えば、合計三人で食事をしていることか――。
そこに後輩もいるから、気になるのは仕方ないのかもしれない。
「なんだ。てっきり毎日こんなのかと、つい――。それなら、本気で好きになられてそうで安心したって言おうかと」
「安心って……」
「割ヶ谷先輩のこと信じてますし、好きだと言われたのも本当だと思いますけど、掛田先輩がマジの目をしてたんで――」
言われてみれば、見られる回数だけでなく、表情もいつもと異なっている気がする。
俺と雫が会話していると、向いに座る茅根が焼きそばパンを机に置き、俺たちの方へ身体を乗り出してきた。
「あたり前でしょ……。好きな男子が知らない女子と仲良くしてたら、何かあるんじゃないかってなるに決まってるじゃん」
「「確かに」」
俺は誰かを本気で好きになるなんて経験がなかったからか、その気持ちが分からなかった。
それを言われてやっと、ハッとした。
「しかも後輩まで連れてきてるんだよ? 後輩に手出してると思われてるかもしれない」
「いやいや、それはないだろ」
「そうですっ。ないですっ」
一学期はあと一ヶ月もあるというのに、後輩とそんな関係になるなんて、一目惚れにも程がある。
もし、夏実が知らない同級生と、知らない後輩と一つの机で昼を共にしていたって、そんな勘違いなんてするはずも――ない……とは言えない。
そうか――。
「嫉妬にはね、事実は関係ない。その人がどう思うのか。好きな人なら尚更、悪い方に考えてしまう」
「「…………」」
茅根の言葉には、言い表せないほどの説得力があった。
掛田さんは俺のことが好きなんだ。
それは、こんなにも見てきてくれるほど――。
こんなにも気掛かりになってくれるほど――。
俺には何にも解決できないが、言い訳みたいになるかもしれないけれど、茅根と雫がただの部員であると伝えたくなった。
「割ヶ谷先輩、私、来ない方が良かったですか……?」
暗い表情と顔で聞いてくる雫。
「いや、そんなことはないよ。どうせ茅根に乗せられたんでしょ」
「まぁそうですけど」
茅根がてへぺろという感じでニヤッとした。
……てか、掛田さんの気持ちを分かりながら、茅根はこの教室にやって来たのか?
「茅根――、結局はなんで一緒に昼を食べに来たんだ?」
「んー……」
茅根は悩んだ末に言った。
「気になったっていうか、見てみたかったから――二人の雰囲気を」
そうだった。
茅根はそんな人間なんだった。
その後、掛田さんにもクラスメイトにも見られながら過ごして、昼休みの終わりを予告するチャイムによって解散した。




