第50話 エピローグ
冬休みに入っても、俺と風花の仲は良好だ。
クラスだけでなく学年全体から、俺たちが付き合っていることは認知されている。
だから俺に話しかける女子や風花に話しかける男子は減ったのだが、夏実までもが風花と遊ぶのを少し躊躇うようになってしまった。
風花は悲しんでいたけど、夏実はそれで良いと言ったから納得している。
しかし、ここ一週間ぐらいは会えていない。
掛田家の家族旅行などもあって、うまく時間が合わなかったのだ。
そんなことを考えながら、真新しい住宅街を歩いていく。
駅を出てから10分ほどが経ち、目的地へと到着した。
何度か来たことがあるここは、風花の家だ。
俺はさっそくインターホンを鳴らす。
するとすぐに家の中から足音が聞こえ、玄関の扉が開いた。
「晴路、おはよ」
「おはよう。風――」
ちょうど名前を言おうとしたとき、風花にハグされて、声が出なくなってしまった。
そしてそのまま顔が近づいてきて、唇に柔らかい感覚が来た。
一度だけの軽いキスは、俺たちの中では挨拶みたいなものになっている。
「早く入って」
「あぁ――」
背中を押されて家の中に入れられる。
鍵を閉める姿に、異様に妖艶な雰囲気を感じ取った。
階段をのぼっていく最中、風花は俺の背中を突いてきた。
「そうだ、晴路――」
「どうした?」
「今日は親、いないんだ……」
「…………」
わざわざ言われなくても、事前に伝えていてくれたから知っている。
なのに風花が俺に言ったのは、俺を惑わすためなのだろう。
そう分かっているのに、まんまと俺は風花をより意識してしまった。
だから俺は精一杯取り繕って、なんでもないように返した。
「あぁ、そうか」
「――んーっ」
背後から、怒っているような唸り声が聞こえてきた。
気になって風花の方を振り返ると、風花は少し大きな声で言う。
「もっと意識してくれても、良いんじゃないかなー!」
「…………」
いや、してるんだよ。かなり。
そう反論したかったが、負けてしまう気がした。
「もうっ!」
風花はゴニャゴニャ言いながら、自分の部屋のドアを開けて、俺を中に入れてくれる。
俺はいつもどおりベッドに腰掛けた。
しかし風花はいつもと違い、隣に座ってこない。
俺の前に立ったままだ。
「風花……?」
風花が俺の方に倒れてきた。
首に腕が回されて、頭を守るように手が添えられる。
バタンっ――。
ベッドに背中を打ちつけて、俺は仰向けに寝る形になった。
そして俺の上には風花がいる。
顔の真上に顔があって、距離感が近すぎる。
今からなにが起こるのか――。
俺は思案した。
すると風花は俺に抱きついて、念入りに身体中を撫でてくる。
キスかと思っていたから予想外だったが、これはこれでかなり精神がヤバい。
「風花、ちょっと……」
「やめないからね」
さすがにし過ぎだと思って、両手で風花を離れさせようとしたのだが、俺の手は虚しく風花にどけられてしまった。
まぁ、俺があまり力を込めていなかったこともあるが――。
…………。
はぁ、はぁ――。
俺も風花も疲れてしまって、荒い息が部屋に響いた。
しかし、風花は俺の頬を触ったままだ。
「晴路、いやじゃない? こういうの」
「まったく――。風花だから、可愛いし」
「……嬉しいこと言ってくれるじゃん」
取って付けたように加えた言葉で、そこまで喜んでくれるとは思わなかった。
でも、結果そうなったのだから、俺もなんだか嬉しくなる。
「風花――」
「っ!」
俺は自然と風花に抱きついてしまっていた。
決して、風花は嫌そうな顔をしない。
「……いいよ」
なにも言っていないのに風花は了承してくれて、俺は風花により近づいた。
このままずっと、風花のそばを離れたくないと誓った。




