第32話 放課後練習-1
体育祭まで、あと二週間を切った。
体育の授業を使って、ある程度は競技の練習をすることができる。
だが、男女分かれて活動しているから、風花との二人三脚の練習がまったくできていない。
俺は将や累が頑張っているのを、ただ眺めるぐらいしかすることがない。
そんなとある日の放課後――。
「晴路、今からって暇?」
そう風花に聞かれた。
隣にいる夏実は、ふーんみたいな表情で眺めてくる。
「もし暇だったらさ、一緒に体育祭の練習しないかなって……。二人三脚、一回も知らないじゃん、しとかないとじゃない?」
「それはそうだな」
ちょうど俺も思っていたところだ。
俺は、今日は部活がないから行ける――と答えた。
たぶん、風花は新聞部の活動がいつあるかを言っているのではないかと思う。
不自然なほどに、風花に誘われる日は部活がオフの日なのだ。
二人で校舎を出る。
九月で夏本番ではないし、蝉の声も弱々しくなっているが、まあまあの暑さで外にいるのが辛いくらいだ。
「あついねー。どこで練習しよっか、晴路」
「んー……」
「外でしようかと思って誘ったんだけど、流石にムリだよね」
「あぁ、そうだな。屋内でできるところがあれば良いんだけど」
考えながら歩く、俺と風花。
悩んでいると、いつのまにか校門を出ていた。
「そうだっ――」
なにかを思いついたのか、風花は俺の方へ顔を向け、右手の人差し指をぐるぐるさせる。
こういうふとした瞬間に、風花の顔が近いと実感させられて、嬉しいか楽しいか、よく分からない気持ちに見舞われる。
「どうしたんだ?」
「わたしの家の中でしたら良いんだよ」
「おぉー」
それは名案だと思って感心の声を漏らした。
だけど、すぐに別の疑問が思い浮かぶ。
「でもさ、迷惑じゃない? 親とかいたらさ」
「大丈夫だよ。今、家誰もいないし――」
意味深長とも捉えることができるその言葉に、俺は言葉が詰まってしまった。
そういう意味で言っているわけではないのだろう。
けれども、そう反応してしまうのは悪くないはずだ。
「それなら、行こっかな」
俺が頑張って出した言葉は、これだった。
「部屋、掃除とかしてないけど、気にしないでくれる?」
「もちろん。急に決まったことだし」
「うんっ、ありがとう」
不安そうな顔から嬉しそうな笑顔になられると、俺まで嬉しくなってしまう。
玄関先までは行ったことがあるが、入ったことはない掛田家に入ることができる。
風花には言えなかったが、それが楽しみで仕方なかった。
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新しめの住宅街にある、とある一軒家――風花の家に着いた。
前に一度来たことがあるからだろうか、最寄駅からの道のりが短く感じた。
風花が鍵を取り出して、玄関のドアを開く。
中からは一切音が聞こえない。
ここにいるのは俺たちだけなんだということが意識させられる。
「晴路、ついてきて」
「わかった」
階段で二階に上がり、風花に自分の部屋と案内された場所に入った。
部屋の中は、意外とと言っては悪いけど、かなり綺麗に整えられていた。
それは、ここに来る前に「掃除してないから」とか言っていたのが嘘かというほどだった。
ベッドの横には本棚が2つあり、そこには本だけでなく様々なものが置いてある。
本棚の一角は、雑貨が置いているスペースになっていた。
そこに俺は、ガラスペンがあることに気づいた。
おそらく、俺が誕生日にとプレゼントしたものだろう。
しかもそれは、一際目立つほど、わざわざ区分けされて置かれている。
嬉しい――。
それだけでは表現できないぐらいに嬉しかった。
「あ……、それ?」
風花が恥ずかしそうに、俺に尋ねた。
「これって、俺が渡したやつだよね」
「そう。わたしの誕生日にくれたの」
思い過ごしだと嫌だから聞いてみると、案の定だった。
照れながら言ってくるから、余計に俺は嬉しくなる。
俺は感謝を伝えたくなった。
「飾ってくれてるんだ――」
「ん、くれたから、使うのもったいなくてさ」
「……ありがと」
そう言うと、風花は髪をかきあげて目を逸らした。
一瞬見えた顔は微笑んでいた。
「使って欲しかったとか言うのかと思った」
「いやいや、そんなこと思わないよ。大事にしてくれてるなら、なんでも」
「嬉しいこと言ってくれるじゃんっ」
少しキザっぽい言葉だったかもしれないが、風花は安心してくれたようだ。
そして少し間があってから、風花は再び喋り出した。
「リビングでする? それとも、わたしの部屋?」
二人三脚の練習のことだ。
よくない返答だとは分かっているが、風花の家だから、こう答えるしかない。
「どっちでもいいけど……」
「それなら、ここでしよっか。下だとテーブルとかあって危ないしね」
「あぁ、そうだな」
そうして俺たちは、この部屋で練習することになった。
ちょっと待ってて――と言って、風花が廊下へと紐を取りに出る。
一人残された部屋。
俺は変なことをしてしまわないようにと、立ったまま動かないでいた。
しかし、視線は本棚のガラスペンがあるところに向いてしまう。
目に見えて分かる風花の気持ちに、自然と向いてしまう。
1分も経たずに風花は戻ってきた。
扉の音がすると同時に、目をそこから逸らして風花を見た。
「なんで立ったままなの? 座ったら良いのに――」
「良いのかなって思って」
「わたしがダメって言うわけないでしょ」
風花は、呆れたのかよく分からない声でそう言った。




