第31話 体育祭種目
一ヶ月後には体育祭がある。
今日はどの種目を誰がするのかを決めるらしい。
学級委員が取り仕切って決めることになっている。
教壇の上に立ち、俺たちの方を向いている女子が和田さん。
バドミントン部に入っていて、部員を楽しく盛り上げて、全体の士気を高めていたりするという。
しかし、真面目なときは真面目にする性格で、みんなに頼られる――そんな人だ。
黒板にチョークで文字を書いている男子が商山といい、この名字に生まれた人の9割が付けられているであろう、あっきーというあだ名が付いている。
部活には入っていないが、学年でほぼトップの頭の良さと成績を持っている。
こちらも、(テストの前のときは特に)みんなに頼られる――そんな人だ。
こんな二人がまとめてくれるということで、みんなも安心なのだろう。
「それじゃあ、一人1競技は出るようにしてって言われてるので、そこんとこよろしくっ」
和田さんが、最大は3ね――付け加えてそう言った。
全員、クラス対抗のリレーは強制で参加となるので、それにプラスで一つしないといけない。
めぼしいものは、二人三脚、借り物競争、玉入れ、この三つあたりか。
生徒会が運動部以外の生徒にも活躍してほしいと言って、体力がモノを言わない競技が用意されている。
俺は大人しく、この辺を選んでおこう。
「ねぇねぇ、晴路」
隣から呼びかけてきたのは夏実だ。
「どうしたんだ?」
俺は一度、後ろの方にいる風花に目を遣ってから、そう返した。
風花も隣の席の女子と話していたから、まぁいいだろうと自分に言い聞かせる。
「競技、なに出るの? 今年も借り物競争?」
「んー、迷うけど……。でも、今年は違うのをやってみたいかな」
去年は知らなくて出てしまったのだが、借り物競争は生徒会の誰かが『好きな人』とか『去年、生徒会長が浮気した後輩』とか、一線を越えすぎている内容があるらしく、ヤバいから誰もしたくないのだ。
去年の俺は運良く普通のお題だったけれど、今年はどうか分からない。
よし、絶対に借り物競争以外をしよう。
「夏実はなににするんだ?」
「私? 私はね、騎馬戦かな。去年してみて結構楽しかったし」
「騎馬戦か、いいな」
でしょでしょ――と言う夏実。
そして続けて「風花はなににするんだろうね――?」と言った。
「さぁ? なにするんだろう?」
「……そうだ。男女混合でする競技って、なにかあったっけ」
それだけで、夏実がなにを言いたいのか分かった。
どうせ、それに手をあげたら、風花は乗っかってくる――ということだろう。
「玉入れと……あと、二人三脚に男女でする枠が1組分あったと思うけど」
男女での二人三脚なんて、生徒会がカップルを盛り上げるためにつくった、遊びのようなものだ。
夏実はうんうんと頷く。
「なるほど、なるほど」
「でも、どうせ、付き合ってるやつらが出るだろ」
「いやいや。それがそういうわけには、いかないんだよっ」
どうしてかと聞こうとしたのだが、和田さんがしゃべりだしたから聞けなかった。
「みなさん決まりました? まだの人は手を上げて教えてねーっ」
みんな上げない。
だから、上げるに上げれなかった。
「それならアンケートとっていきますっ。競技を順番に聞いていくから、したいやつのときに挙手してね!」
和田さんは始めてしまった。
はやく決めないといけない。
「晴路、二人三脚にしたら?」
迷っているときにそう後押しされたら、それ以外考えられなくなってしまう。
いやでもないし、変な噂も聞かないから、もう二人三脚でいいかもしれない。
そうして夏実は騎馬戦に手を上げ、俺は二人三脚に手を上げた。
風花は、騎馬戦と二人三脚――両方に手を上げた。
二人三脚を選ぶときは、俺が挙手したのを確認した後に立候補していた気がするが、そういうことなのだろうか。
クラス全員、第一希望は通り、風花は二つともすることになった。
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「じゃあ、誰と誰が男女ペアのに出るか決めようっ」
和田さんが元気にそう言った。
俺、風花、和田さんを含めた、男女それぞれ5人の10人が二人三脚にエントリーしている。
「えーっと……、したい人いる?」
じゃあ私たちが――! というカップルがいると思ったのだが、10人全員名乗りでない。
見たところによると、われら4組の彼氏彼女がいる人たちは、この競技には出ないらしい。
これは予想外だった。
「どうしよっか、やる人いないなら私がするけど?」
率先してそういうことをしてくれるのが、和田さんのみんなに好かれる点でもあるのだろう。
どうしようか。
手を挙げても、風花とするか決まっているわけではないし――。
そう悩んでいるとふと、風花と目が合った。
しようという視線なのか、しないでおこうという視線なのか、はっきりしない。
でも俺は前者だと思った。
「誰もいないなら――」
そう言いながら手を上げた瞬間。
同時に。
「それなら――」
と、風花が手を上げた。
示し合わせたわけでもないのに、まったく一緒のタイミングになったのが少しおかしくて心の中で笑ってしまった。
和田さんは俺たちを交互に見て、驚いた顔を浮かべた。
「すごいね、息ぴったりっ」
そこまでは普通の会話だったかもしれない。
だが――。
「そんな二人なら、二人三脚も上手くできるよ!」
どういう意味で言ったのかは分からないが、俺たちの関係を知っていた感じではない。
でもそれが、夏実にからかわれるときよりも重く心に来て……。
思わず、俺の顔が熱くなってしまった。
風花は軽く微笑んだ。
この光景に、他のみんなはどう感じたのだろうか――。
それはまったく見当もつかなかった。
「二人にやってもらうでいいよねっ?」
和田さんは周囲を見て、確認を取った。
もちろん否定する人はおらず、男女ペアの二人三脚は俺と風花がすることになった。
その後、男子ペアと女子ペアはすぐに決まり、俺たち二人三脚のグループは解散になった。




