第3話 【緊急】恋愛相談室
憂鬱な数学の授業が終わり、全てから解放される放課後が始まった。
明日からの土日ということもあって、どこに行くかや何をするかを話し合う声が聞こえる。
俺はそれを尻目に、鞄を持って立ち上がり教室を後にした。
「ガヤーっ」
廊下を歩いていると、そう呼びかけられて後ろを振り返る。
すると後方から朝も見たアイツが迫ってきているのに気づいた。
そして「よっ」と言われ、肩を叩かれた。
その音はかなり大きく、周りにいた人々がビクっと反応してしまっていた。
痛い……コイツ、絶対全力でやっただろ……。
俺が睨んでも全く悪びれる様子もないこの女子は、同じ新聞部で同級生の茅根佳那。
「早く行くよ。シズちゃんも待ってるだろうしさ」
「あぁ」
早歩きで部室に向かって行く茅根に置いていかれないよう、俺はついて行く。
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自分自身だけで迷って悩んでたって何も解決しない――。
俺は決心した。
「俺、実はみんなに聞きたいことがあるんだ……」
新聞部の作業も一段落ついたところで、俺は茅根と、新聞部のもう一人の部員で後輩の藤乗雫にそう言った。
「恋バナ?」
「まさかー。割ヶ谷先輩にそんな話があるわけないですよ」
「だよね。どうせ朝に担任に叱られたとかそんなんじゃない?」
「うんうんっ、そんな気がしますっ!」
「シズちゃん分かってんねー」
「茅根先輩こそー」
二人が何やら俺に対する酷い話をしている。
なんか、貶されてる気しかしない。
「実は――」
俺が会話に割って入ると、茅根と雫はちゃんと黙ってくれた。
こういうところがあるから、毎度二人を否めないんだよな……。
「――俺のことが好きっていう女子がいるんだけど……、どうすれば良いのかなって……」
雫はだらしなく口をポカーンと開けて固まってしまい、茅根は「夢……?」と呟きながら自分の頬を叩いている。
「ガヤ、本当……じゃないよね。誰からの情報?」
「いや、本当だから。あと誰からっていうのは――直接聞いたって言うか……」
あの状況を正しく表現する言い方が見当たらず、曖昧な返事をしてしまう。
「割ヶ谷先輩は、その女子に告白されたってことですか?」
「別に告白はされてない。好きとだけ知らされただけって感じ……?」
「「は――?」」
二人ともポカンとしている。
やっぱり一から何が起こったのかを伝えるべきなのだろう。
「昨日の新聞部が終わってからの話なんだけど――」
……。
…………。
………………。
「――というわけなんだ」
俺はことの一部始終を事細かに言った。
ありがたいことに二人は真剣に聞いてくれて、やっぱり女子って恋愛話には真面目なものなのだと思った。
それと自分の言葉で伝えることで、俺としても情報を整理することができ、なんとなくだが今までよりかは混乱がおさまった気がする。
「なるほど……」
「つまり、割ヶ谷先輩はその掛田という子とどう関わっていけばいいのか分からないってことですか」
「まぁ、そういうことだ」
二人が「うんうん、なるほどね」という感じでものすごく頷いている。
すると何か思いついたのか、雫の動きが止まり俺の方を見てきた。
「ちなみに、掛田先輩……って、どんな人なんですか? 割ヶ谷先輩を好きになるくらいなら、おとなしい系とかです?」
「掛田さんは――」
「――掛田はねー」
俺が話そうとすると茅根に声を被せられ、話のターンを奪い取られた。
「おとなしい感じじゃなくて、なんていうか……ギャル系って感じかな。でもそこまでじゃなくて、ガヤでも付き合ってギリギリ馬が合いそうな感じ……?」
「へぇ、なんだか意外です!」
ギリギリ……。
馬が合いそう……。
確かに俺もそんなことを内心思ってはいた。
もしも付き合ったとして、仲良く話が噛み合うのか――。
放置しておこうとした引っ掛かりも、茅根たちに聞いたおかげで、現実問題へと引き戻してくれる。
「茅根先輩。一応なんですけど、可愛いですか?」
「可愛い部類に入……いや、普通に可愛いと思うかな」
「ふんふん……」
掛田さんが可愛いと言われる美少女っぷりなのは確かにそうだ。
思い返せば何回か告白されたことがあるという噂を聞いた覚えがあるし、そのうちの一人は先輩のハイスペックイケメンだったらしい。
みんなから美男美女の誕生か――? と騒ぎ立てられていたのも記憶に残っている。
確か最後は、そのイケメンに告白されて「好きな人がいるから」と振っていた。
そのときはまさか、好きな人が俺だとは思いもしなかった。
……あれ? 俺はいつから掛田さんに想われていたんだろうか――?
もしかすると、あの振り文句の好きな人は違う人で、その後に気が変わったのかもしれないな……。
まぁいいか。
考えも無駄だ。
「良かったじゃないですか、割ヶ谷先輩」
「まぁ、嬉しくなかったって言えば嘘になるけど……」
「それなら付き合っちゃえばいいんですよ」
「いやいや。付き合うなんて、そんな簡単に言うけどな」
可愛いと持て囃されるような女子から思われているなんて、男なら誰でも良い気分になるに決まっている。
だが、それで交際とかいう関係になるのかは全くの別問題。
「付き合ってから好きになることもあると思うんですけどね……」
「まぁ、それはそうかもしれないけど」
それ自体は反論できない。
そんな恋もありふれているのは分かっているから。
「ガヤもシズちゃんも、先のことを考えすぎてるっ!」
急に大声を出して立ち上がった茅根。
「どういうことだ?」
「つまり、ちょっとずつ仲良くなっていくの。どうするかはその道中で考えれば良いじゃない?」
「確かに。茅根先輩賢いっ」
「確かに――?」
俺は大事なことを忘れていたのかもしれない。
掛田さんはまだ告白しないと言っていた。
だからまだ、付き合うとか――そんなフェーズには入っていなかったのだ。
「段々好きになるのか、変わらないのか、それは分からないけど、友達とかになる価値はあるんじゃない?」
「なるほど、そうだな」
茅根は深く頷いて、名案を言ったと自惚れいるようだ。
何度か首を上下にすると、俺にグーサインをしてこう言った。
「じゃあまずは、ガヤが掛田に話しかけれるようにならないとね」
「ぇ? 俺から?」
「俺から――じゃないっ」
茅根は俺の困惑する思いを一喝した。
「今、掛田は好きってバレて恥ずかしい最中なのは分かるよね?」
「まぁ、そうだろうな……」
「ならガヤから話しかけるしかないでしょ」
言い返せない――。
仲良くなるには、俺から関わっていかなきゃいけないのか。
「分かった?」
「ああ分かった」
「ほんとかなぁ?」
「ほんとだよ」
その後も俺の恋愛相談は続いたが、雫がふざけはじめたせいもあり、結局結論は試しに仲良くなってみる――ということになった。




