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好きバレした掛田さんが可愛すぎる話  作者: 冷泉七都
第二章

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16/50

第16話 体育倉庫

 閉じ込められてから10分くらいが経った気がする。

 次の授業のスタートを告げるチャイムが鳴った。

 今ごろ教室では、俺と掛田さんがいなくて不思議に思われているところだろう。


 背中に汗が、気持ち悪いほど滲む。

 額から出る汗も止まらない。

 掛田さんも同じようで、体操服の半袖部分を顔に当てて汗を取っている。


 七月中旬ということもあって、朝のニュースでは気温が35度を超えると言っていた覚えがある。

 体育館自体はクーラーが効いていて涼しかったのだが、体育倉庫にはその風が一切届かない。

 コンクリート壁でできた部屋に、熱気だけが充満する。

 このままでは水分不足になってしまうかもしれない。


「ごめんね、わたしが助け呼ぶのを止めちゃったから。この暑さ、予想以上に辛い……」


 熱にやられたのか、やけに素直に真実を言って謝ってきた。


「別にいいよ。今言っても遅いし」

「ん、ごめん」


 暑すぎて何か話す気にもならず、俺も掛田さんも黙ってしまった。


 ………………。

 …………。

 ……。


「暑いし、上脱いでも良い?」

「――は?」


 唐突にそんなことを言ってきた掛田さんに、渾身の疑問符を放った。

 今度こそマジでおかしくなったのか。


「良いよね――」


 掛田さんは自分でオッケーを出して、腕を身体の前でクロスさせて、体操服の裾をつまむ。

 そして俺が阻止する間もなく、体操服を脱いだ。

 俺は視界に入れる前、すぐに目を逸らして掛田さんを見ないようにする。


「掛田さんっ!?」

「なに?」


 俺が抗議の意を込めて名前を呼んだのだが、なんでもないように返された。


「なに、じゃなくてっ!」

「割ヶ谷、体操服の下にも着てるから大丈夫だし。こっち見て――」


 体操服の下とは?

 体操服on体操服か?

 それなら大丈夫だろう、そう考えて顔を上げたのだが、そこにいたのはインナー姿の掛田さんだった。


「いやいや――」


 鎖骨の全体露わになっているし、普段は見えない肩だって隠されていない。

 なにより、体操服のときよりも明らかに見える二つのアレ。

 見てはいけないと分かっているのに、自然と視線が向かってしまう。


 女子のそんな姿は初めて見た。

 掛田さんの全てが、俺の心身的にヤバい。


「――掛田さん、それはちょっと……」

「直接ブラじゃないから、良いんじゃない?」

「良くないっ」


 掛田さんは俺、俺たち男子をなんだと思っているんだろう。


「でもさ、なんでダメなの?」

「そりゃあ、俺の目があるし……」

「ドッチボールのとき、他の男子たちに紛れてチラッて見てたのに――?」


 ぇ――。

 あのとき、掛田さんにバレていたのか……。

 他の男たちよりかは理性が働いていたのだが、少しだけ見てしまっていたのは事実だ。


「まさか、気づいてた?」

「もちろん。割ヶ谷も男子っつーか、そういうところもあるんだなって」

「ごめん……」


 見たことは無くせないが、しっかりと謝る。

 真面目にやっているのを、そういう感じで見られるのは嫌だろう。

 掛田さんはにこやかな表情を変えていないけど、軽蔑されていないか不安だ。


「別にいいし、こんなんで割ヶ谷のこと嫌いにもならないし」

「なんで?」


 俺が聞くと、掛田さんは呆れた様子で言う。


「それぐらい分かるでしょ、わたしに言わせるの? 割ヶ谷は――」

「…………」


 なるほど、そういうことか。

 俺は納得した。


「一応言っとくけど、浅川とか、割ヶ谷以外から見られるのは嫌だよ。体操服より下は見せないし、絶対」


 俺だけ特別――とか言われると、心が揺さぶられる。


「でもさ、わたしが頑張ってるときは、そっちを見て欲しかったかな――」

「それは、……本当にごめん」


 掛田さんはボソッと、それはいつでもできるのに――と呟いていた。

 微かな声が聞こえなかった振りをするために、俺は「とりあえず、体操服を着直して」とお願いした。


「うん……」


 掛田さんはそばに置いていた体操服を手に取り、腕を通し、頭を通し、体育の授業と同じ姿に戻った。

 なんだか不貞腐れている気がするけれど、ようやく、掛田さんをまっすぐ見ることができる。

 さっきまでの余韻が頭の中を渦巻いていて、想像しないといえば嘘になるが、頑張って記憶を振り落とす。

 

 掛田さんが元に戻って安心すると、一気に汗が出てきた。

 さっきまでは暑さよりもなことがあって、暑いことをすっかり忘れてしまっていた。


「それよりどうしよう」


 掛田さんは立ち上がり、扉の方へと向かう。

 自分のせいという気持ちが強いのか、足取りが重い気がする。

 扉に手を掛け、力をかけた。


 キィー――。


「開いたよ……」

「――ぇ?」


 開いた?

 いつから?


「もともと締まってたっけ?」


 確かに言われてみれば、鍵を閉められた音は聞いていないし、扉を開けてみようともしてない。

 普通なら、それぐらい気づくし試さないか?

 それでこんなことになってって……。


 お前だって、掛田さんみたいに、心の中ではこんな体験をしてみたかったんだろ――と言われても否定できない気がする。

 なんともいえない雰囲気の中、俺たちは体育倉庫を後にした。


 その後授業に遅れた俺たちは、体育倉庫に閉じ込められたと正直に言って、体育教師の手伝わせたという証言もあり、ギリギリ許された。

 多分。



   / / / / /



「晴路、風花から聞いたけど、倉庫に閉じ込められたってほんと?」


 放課後、なんだかいつもより元気そうな夏実がそう聞いてきた。


「まぁ、本当だ」

「へぇ――。どうだった?」


 ニヤニヤして聞いてくる。


「夏実が聞いて面白いことは、なんにも無かったよ」

「嘘だーぁ。風花、かなり積極的なことしちゃったかも――とか言ってたけど?」

「…………」


 夏実は俺になんて返して欲しいんだろう。

 返答が思い浮かばなくて考えてみるが見つからない。


「さっき、かなり照れててさ。風花も頑張ったんだよ。晴路――」


 そう言い残すと、どこかへと去っていった。


 俺は夏実の言葉を噛み締めた。

 晴路という呼び掛けには、分かってるよな――の意味が含まれていた気がする。

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