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好きバレした掛田さんが可愛すぎる話  作者: 冷泉七都
第一章

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第1話 掛田さんは俺のことが好き

 高校二年生の生活にも慣れた六月。

 依然、俺――割ヶ谷(わりがや)晴路(はるみち)は可もなく不可もない生活を送っている。

 一年生の入学初日から仲良くしていた友達は違うクラスになってしまったし、このクラスは既にグループができている人々が多いという……。

 まぁ、みんな良い人だから、ぼっちになるってことはないのだがな。

 その友達も時々、俺に会いに教室へ来てくれるし――。


 なんて考えながら、俺は北校舎の階段を登っていく。

 向かう先は俺の所属する2年4組の教室。

 時刻は19時前という、まもなく最終下校となってしまうときに何故こうしているのかと言えば、部活が終わった後に忘れ物をしたことに気づいたからだ。

 忘れたのはスマホ。

 家に帰って無かったら困る。

 だから必ず取り戻らなければならない。


 30分前までは流れていた吹奏楽部の音も、野球部のノック音も、何も聞こえない。

 唯一聞こえるのは、俺の足音だけ。

 そんな人っ子一人いない中を歩いて、やっと教室へと辿り着いた。


 そして俺が扉を開けた瞬間――。


「だ、か、ら――!」


 と、何かにイライラしているらしい大きな声が聞こえた。

 急な声にビクッとしながらも、俺は教室の中を見渡す。

 どうやら中央で二つの机を向かい合わせて、同じ四組の掛田(かけだ)さんと、その友達の夏実(なつみ)が話し合っているらしい。

 掛田さんは立ち上がって、机に手を置いて前のめりになった。

 さっきの大声の正体は掛田さんだろう。


「夏実には何回も言ってるけど――!」


 そう言われ指を指された夏実は、俺が来たことに気づいて、こちらを見つめてきた。

 あっ――! と声を漏らしていそうな顔だ。


「わたしが好きなのは割ヶ谷だしっ!」


 ……。

 …………。

 ………………。


 ……え?


 聞き間違いとしか思えない掛田さんの言葉に、俺は声も出なかった。

 掛田風花(ふうか)はクラスで――いや、学年でも名が知れたギャル系美少女なのだぞ。

 掛田さんが俺のことが好き?

 そんなことありえない。


 いや、でも、夏実の様子を見る限りは本当のことを言っている気がする。

 掛田さんの目も嘘を吐いているとは思えない。

 よく分からない、胸のざわめきを感じた。


風花(ふうか)……」

「なに? また、この学校にはもっとカッコいいイケメンが居るのに、とか言うつもり?」

「そうじゃなくて、さ。あっち見てみてよ」

「わたしからすれば割ヶ谷が一番で、割ヶ谷の彼女になりたいっていつも言ってるっしょ」


 捨て台詞みたいに言い切って、掛田さんはこちらに首を向けてきた。


「ぇ、っぁ、わ、わっ、わり、わりが、わりがゃが……」


 痙攣したみたいな口でボソボソと呪文を唱える掛田さんの顔は、だんだんと紅潮していっている。

 人からの好意を知ってしまった俺も、そうなってしまっているのかもしれない。

 そんな俺たちを眺める夏実は、心底楽しそうにニヤリと微笑んでいる。

 他人の色恋を糧にして生きている女子、そのものだ。


「割ヶ谷、今の……聞いてた?」


 俺をまっすぐ見て恐る恐る質問する掛田さんに、さっきの夏実に対する発言みたいな勢いはなかった。

 やはり、あれは嘘じゃないのだろう。


「まぁ、な。聞こえちゃったよ」


 言いづらい。

 誰かから好きとか、そういう感情を表現されたことがない俺に、この展開はキャパオーバーすぎる。

 理解できるのに理解できない。


「はぁ。よりにもよって、なんで割ヶ谷にバレちゃったのかなぁ……」


 こういうときに返せば良い言葉が分からない。

 だから、俺も、掛田さんも黙ってしまう。


「風花、どうするの?」


 夏実の発言に『付き合うの?』という意味が含まれているのは明白だった。


 そんなこと言わないでくれ……。

 正直言って、俺は掛田さんに告白してほしくない。


「まだ早すぎるしっ。いま告っても、絶対に振られるしっ」

「……」


 どういう意味で掛田さんがそう言ったのかは分からない。

 だがその言葉の通り、俺は告白されても振ってしまう。

 つまるところ、俺は別に掛田さんが好きというわけでない。

 一年生の頃も同じクラスだったが、今まで関わりはほぼ無いに等しかった。

 それは掛田さんも理解しているのかもしれない。


「そっかぁ。《《まだ》》、ね」


 夏実の余計な一言で教室は沈黙に包まれた。

 居た堪れなくなった俺は、机の中からスマホを取り出し、鞄に仕舞い込んだ。


「割ヶ谷、さっきのは忘れてほしい……」


 教室から出ようとした瞬間、背後から掠れたような声が聞こえてきた。

 俺は返事ができなかった。

 振り返るのが面倒だったわけじゃない。

 忘れることなんて――そんな、できなそうなことに首を縦に振れなかっただけだ。



   / / / / /



 そっか、掛田さんは俺のことが好きなのか――。


 帰路に着くと、やっとこさことの重大さを感じてきた。


 もし俺が掛田さんに好きと言えば、今目の前にいるカップルみたいにラブラブイチャイチャできるのだろう。

 流石に俺はそんな、恋に恋する打算的人間ではない。


 おい、目の前のカップル。

 恋人繋ぎをするんじゃない。


 確かにあんな美少女に好きだと言われるのは嬉しくない、わけがない。

 だがここで付き合っても、倦怠期もクソもある前に別れるに違いない。


 おい、目の前のカップルの彼女。

 彼氏の腕に抱きつくんじゃない。


 どっかで見た、好きな人からの好意は嬉しいが好きでもない人からの好意はキモい――というネット記事を思い出す。

 あれは女子のことを言っていたのだが、キモいとまでは思わないにしろ、似たような状況であるのはそうだ。


 おい、目の前のカップルの彼氏。

 彼女の頭を撫で撫でするんじゃない。


 俺はどうするべきなのか。

 何もできないのが真実だろうが、この複雑な感情を消し去りたい。


 おい、目の前のカップル。

 見つめ合って良い雰囲気になるんじゃない。


 なんだか、前を歩く二人に思考を邪魔されて上手く考えられない。


 …………。


 まぁ、掛田さんも告白なんてしないと言っていたし、いっそのこと何事もなかったかの如く忘れるのもありだろう。

 俺が何もしなければ、単なる日常が繰り返されるだけだ。


 よし、そうしよう――。


 俺はそう心に誓って、イチャイチャカップルを追い越した。

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