第八話:剣士としての覚悟と宣言(でもさらにモテる)
もう我慢の限界だった。
モテ騒動。告白騒ぎ。婚約申込みの書類が届いたのは五通目。
ついには「アカネ様と一緒に特訓できる券」なる紙切れを発行して、校内通貨として流通させてる馬鹿が現れた。学園が破滅に向かっている。
そこで私は決意した。
終わらせよう。この狂ったヒロイン扱いを、私の手で。
***
場所は学園中庭の掲示板前。昼休み。
私は、呼びかけた。
いっそ潔く、全員まとめて。
「おい、ちょっとそこらの奴ら全員聞け!!!!!」
声を張り上げた瞬間、ざわついていた昼休みがぴたりと静まった。
「アカネ様が……何かを……?」
「新しい名言か!?」
「ついに誰かと交際発表か!?」
「殴られたい!!!」
「違うわボケぇぇぇぇぇぇ!!!!」
机の上に飛び乗り、私は叫ぶ。
「今から! この場を借りて正式に宣言する!!」
息を吸い込む。腹の底から、全霊で――
「私は、剣士だ!!!!!」
どよめき。
「誰かの彼女じゃねぇ! 誰かの嫁になる気もねぇ! 誰かのヒロインになんて、なおさらなる気はねぇ!!」
息を吐いて、私は一歩前に出る。
「私が目指すのは、“最強の剣士”だ! 恋も愛も、今の私にはいらねぇ! これ以上、しつこく言い寄ってくる奴がいたら――容赦なく全員ブッ飛ばすからな!!」
――沈黙。
やった。これで、さすがに目が覚めただろ。
これ以上、私に恋愛だのヒロインだの押しつけてくる奴はいない。
……いない、よな?
「アカネ様ァァァァァァァ!!!!」
「惚れ直した!!!」
「俺、ぶっ飛ばされたい!!!」
「全力で告白して、全力で拒絶されてえぇぇぇ!!」
「ストイックな誓いが逆に刺さるのよ!!」
「男らしさに性別の壁が壊れそう!!」
「百合もアリだと思うの!!」
……うん、知ってた。
私はそっと机から降りた。
クロウが、近くで見ていた。
「……マサムネ」
「……あー。ダメだった」
「……でも、お前らしいな。全力で叫んで、全力で嫌われようとして、全力で好かれる」
「皮肉か?」
「違う。“好き”だってことだ」
「………………」
もう言葉が出なかった。
***
その夜。
私は一人、剣術場の照明の下で木剣を振っていた。
静かだった。誰もいない。
汗の音と、木剣の風を切る音だけが響く。
――そう。これが私の原点だ。
「私は……剣士だ。たとえ、この世界全部が“ヒロイン”を求めたとしても」
振るう。もう一度。何度でも。
「私は、私を貫く。剣こそが、私の――生き様だ。」
そして、私は静かに構えを取る。
この先、何があろうとも。
何人に惚れられようとも。
私の恋人は、この剣一本だけだ。
……いや、クロウはちょっと例外だけど。
――なんて、思ってしまった自分に驚きながら、私は夜空を見上げた。
とりあえず第一部終わりました!
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