第六話:学園戦技大会、ラブアタックと真剣勝負
――戦技大会、それは剣術学園における年に一度の大イベントである。
学生同士の真剣勝負。実力と名誉と、あとちょっとの青春と、ものすごくどうでもいいロマンスが渦巻く大会。
上位に食い込めば、上級生との模擬戦の権利や、王立騎士団への推薦枠すらも夢じゃない。
「よし……やるしかねぇな……!」
私は気合を入れ、拳を握った。
この戦技大会で優勝すれば、さすがの連中も「アカネ=最強」「アカネ=恋愛対象外」として認識してくれるはずだ。
――だが、それは甘かった。
***
開会式。広大な訓練場に生徒たちが並ぶ中、司会の教師が開口一番こう言い放った。
「さて、今年の戦技大会。例年と違い、優勝者には――“好きな相手への公開告白権”が与えられます!」
「はああああああああああああああああああ!?!?!?」
誰かの絶叫が響いた。
もちろん私だ。
「告白権ってなんだよ!? おかしいだろ!?」
「だって青春だもの! 剣も恋も一緒にやれって、学園長の粋な計らいらしいぞ!」
「粋じゃねぇよバカか!? 剣士の誇りどこ行った!!?」
しかし周囲の反応は――
「つまり……勝てばアカネ様に告白できるってことか……!」
「うおおおおおお! 本気出すしかねぇ!!」
「剣は愛のためにある!!」
「アカネ嬢を手に入れるために!! 優勝する!!」
「………………」
終わった。
この大会、私を取り合う修羅場になる未来しか見えない。
***
第一試合、開始。
私の対戦相手は、予選トーナメント突破者のひとり――ジルク・アルテミオンだった。
「さあアカネ嬢! ここで僕の愛を見せるときだ!!」
「……悪いが、今日だけは本気でブッ飛ばす」
「それが愛!!」
「黙れええええええええッ!!」
私の木剣が炸裂し、ジルクは美しい放物線を描いて空へと消えた。
場外負け。試合時間、七秒。
審判「しょ、勝者! アカネ・マサムネッ!!」
観客「アカネ様~~~~~~!!!!」
……くそ、テンション上がってんじゃねぇよ。
***
次の対戦相手は、セリス・ヴァルター。
「来たわね、マサムネ」
「来たくなかったんだけどな……なんでお前が上がってきてんだよ」
「当たり前でしょ。あなたに会うために勝ち進んできたのよ」
「いや戦技大会ってそういう大会じゃねぇから!!」
セリスの剣は鋭く、冷たく、そしてなぜか艶っぽい。
彼女との戦いは、まるでダンスのように滑らかだった。
「私、今ならわかる……あなたに斬られたい」
「変な悟り開くな!!」
木剣で押し切って、私が勝利した。
でもその後、セリスが頬を紅潮させてこう言ってきた。
「……また斬って。次はもっと深く」
「お願いだから誰か精神科連れてきてくれ!!」
***
そして、準決勝。
相手は――クロウだった。
「……マサムネ。やっとだな」
「おう。これが初めての真剣勝負だな」
彼は、木剣を握り、すっと構えた。
騒ぐ観客の声は、気にならない。今は、ただこの一振りに集中する。
「本気で来い」
「ああ」
交差する木剣。重く、鋭い。
互いに全力で、ただ“強くなるため”に打ち合う。
……そうだ。これだ。
私がやりたかったのは、こういう戦いだったんだ。
「……楽しいな、マサムネ」
「……ああ。私もだ、クロウ」
試合は、僅差で私の勝ちだった。
彼は何も言わず、静かに笑って手を差し出した。
私も、黙ってそれを握った。
***
決勝戦。
対戦相手は――まさかの第一王子、レオニス・フィルグレイ。
「この大会を通じて、改めて確信したよ」
「……なにをだよ」
「やはり、君こそが――この国で最も美しい剣士だ」
「………………はぁ?」
このバカ王子、武器を“口”に持ち替えやがった。
「優勝したら、君に告白させてもらう」
「……じゃあ、全力で止めるまでだ」
レオニスとの決戦。
私の全力と、彼の全力。ぶつかる剣と、心と、そして――運命の一太刀。
勝者は――
「……アカネ・マサムネ、勝利!!」
私だった。
……でも。
レオニスは、負けても笑っていた。
「君に負けたことが、こんなに誇らしいなんてな」
「……うるせぇ。照れるだろ」
どこまでも真っ直ぐで、誠実なその瞳に、思わず目を逸らしてしまった。
……こいつら全員、どうしてこんなに全力で“私”に向かってくるんだよ……!