第一話:入学とモテ地獄の始まり
春。
ラナリア王国の首都、グランステラ。
ここにある王立剣術学園は、国内の剣士志望者の憧れであり、私――アカネ・マサムネが目指してきた場所だった。
「ふん……やっと来たか。剣と誇りの学び舎ってやつに」
私は大きく息を吸い、門の前で胸を張る。
特待生としての入学。剣の腕一本で勝ち取った名誉だ。誰のコネでもなければ、貴族の血も引いてない。ただ、鍛錬と実戦の積み重ね。流した汗と血の分だけ、私はここに立っている。
それが、誇りだ。
「よし、今日からが本番だ……最強の剣士になる。恋愛とか、色恋とか、そんなくだらねぇもんに構ってる暇はねぇ!」
そう、私はこの学園に恋愛なんかしに来たわけじゃない。
にもかかわらず――
「アカネ様〜! おはようございますっ! ああ……お美しい!」
「良ければ今日、放課後にお茶でもっ!」
「僕と手合わせしませんか!? いえ、むしろ手を繋ぎましょう!!」
「アカネちゃ〜ん! 朝ご飯食べたぁ!? 手作り弁当あるよ〜〜〜!」
「……………………」
なにがどうなってんだ。
初登校初日でこれってどういう状況だ!?
私はただ、朝の稽古を終えて登校しただけだぞ!? しかも道中ずっと走ってきたから髪も乱れてるし、汗で襟元ベッタリなんだぞ!?
これのどこに惚れる要素があった!?
……いや、落ち着け私。冷静になれ。
もしかしたら、まだ“本格的なバカ”が発生する前の軽いジャブなのかもしれん。
「先に言っとくけどな」
私は立ち止まり、騒がしい連中に向き直る。
「私は恋愛に興味ねぇんだよ!! 剣が恋人だ! 誰も入ってこれねぇからなッ!!」
バシィィィン、と地を蹴る勢いで叫んだ。
我ながら迫力には自信がある。ちょっとした魔物なら威嚇で引くはずだ。
なのに。
「キャーッ! “剣が恋人”だってー!? 名言すぎるー!!」
「やべぇ……惚れた……もっと拒絶してほしい……!」
「ツンの奥にある情熱がたまんねぇ!」
「わたしも女だけど落ちそう……」
「……………………」
やべぇのはお前らの頭だよ。
これはまずい。
どうやら私は――この学園で“ヒロイン”というやつに分類されてしまったらしい。
まったく不本意にもほどがある!!
私はヒロインなんかじゃない。
恋にうつつを抜かして弱くなる女じゃない。
私はアカネ・マサムネ。剣士だ。最強を目指す戦士だ。
だから、お願いだから。
――モテるな私。
剣術学園生活。
それは、想像の十倍めんどくさい幕開けだった。