ー第3話本田宗一郎旧宅
村松は「本田宗一郎ものづくり館」の玄関に立った。町民らが展示物を地下に退避させる為の時間稼ぎだ。
「村松さん。時間稼ぎなど意味有りません。さっさと実験車輌を渡して下さい」
後ろにサブマシンガンを持った隊列を従えている。
「名前も挨拶も無い。礼儀が成ってない」
スーツにシルバーグレーオールバックの男は俯いて笑った。
「なるほど?誇りが御有りで村松所長」
「誇りだけだと思うかっ!」
「ご要望にお応えしてご挨拶を」
男は顔を上げ、冷たく村松を見た。
「CIA日本支局、局長のディランスプリングです。お国の幹事長は、名乗った瞬間失禁されたが?村松所長はオムツを装着で?」
「小も大も済ませておいたよ」
「それはそれは。臭く無くて良い」
「いや?後ろはキナ臭くて吐きそうだ」
「車輌を渡せば、吐かずに済む」
「お断りする」
「やれ」
後ろの隊列が進んで来た。
一方地下ラボ。
展示物の車輌を曳いてきた町民が、エンジンを掛けた。見事にエンジンが掛かる。
「それ?動くんですか?」
「当たり前や。本田宗一郎ものづくり館は動態保存や」
作業者の女性が言う。
「脱出口は本田宗一郎旧宅の柏の木です。FTRのナビにデータが入っているので、下村さん先導を」
「判りました」
下村はFTRに跨がって起動させる。
複雑なラボの廊下を、展示物を率いて走り始めた。バックミラーの中で、女性は血を吹いて倒れた。
「マジかよ?」
幾つかの角を曲がり、70度近い登り勾配に入った。展示物の2輪も付いてくる。
本田宗一郎旧宅の柏の木の横の庭で、庭に花を植えていた妻が夫に言った。
「ねえ?柏の木下がってない?」
「下がってるよ」
ついに柏の木が消えた。二人は庭の柵に駆け寄って見るとポッカリ四角い穴が有り、斜路が見えた。そこをベッドライトと共にバイクが飛び出た。その後ろを自転車みたいな2輪が湧き出して来る。
「あの?」
「はい?」
「案内板が無いですが?本田宗一郎さんの植えた柏ですか?」
「いや。案内板、横に有ったんですけど。壊れて、一緒にゴミに出したみたいです」
「じゃあ本田宗一郎さんの柏で間違い無い?」
「間違い無いです」
「判りました。ありがとうございます」
バイクはビュンと空に飛んだ。他は一斉に山に向かって走り出し、柏の木はせり上がって元に戻った。
「何なの?」
「旧車会かな?それにしては古過ぎるような」
「自治会長の松岡さんの旦那さんが居たよ?」
「ものづくり館の試験走行かな?」
「柏の下から出る?」
「出ないけど、イベントかもな」
「イベントね」
その二人の前で柏の木の前の道路から火柱が上がって、上空からジェット機が掠めて上昇した。
「F15みたいだけど。町役場気合い入り過ぎだろ!」