追放されてみよう!
「な、なんだアンタは……」
俺は本を棚に戻しつつ、その男に問うた。
「ふっふっふっ。まあそう身構えなくてもいいですよ、紅色の勇者こと、清水氏」
なんだコイツ……。
「己が限界を感じで『追放モノ』に目を付けましたか」
小太りの男はキラリと眼鏡を光らせた。
「……オマエ……何者だ?」
俺の素性を知っているとは……。
「そうですね……邪王獄炎の使い手リベルト……とでも呼んでもらいましょうか」
中二病か。
「くくく……今宵も我が左腕が疼くなり……」
中二病か。
「静まれ吾輩の腕えええええ!」
いやだから中二病かて。
「吾輩のことは邪王獄炎リベルト……略してヲタと呼んでください」
どこをどう略したらそうなんの?
つーか最初からヲタで良かっただろ。
えっ、なんだったのその邪王獄炎……ああもうめんどくせえ。
ヲタね、はいはい。
「で? ヲタは何で俺のこと知ってんだ?」
「ふっふっふ。それは吾輩が装備している眼鏡に秘密があります」
「……眼鏡?」
「ええ。これは隠しダンジョンで偶然見つけた『真実を映し出す眼鏡』です」
……なるほど……。それで俺のステータスが丸見えってことか。
「ところで清水氏、追放モノの良さは分かりましたか?」
「はあ? んなもん分かるワケねーだろ。パーティークビ宣告されて……その辺を放浪する話だろ? 見たくもねー……」
自分がそうなるかも、という不安が俺をそうさせていた。
「ふっふっふ。まるで分かっていませんね清水氏。追放モノの良さはそこではありません」
「なに?」
「確かに主人公は序盤にパーティーを追放されます。しかしその後の展開が爽快なのですよ!」
……その後の……展開だって……?
俺は早速、追放された後の物語を読んだ。
「こ、これは……!」
俺に電流が走る……!
追放された全ての主人公が『実はパーティーに欠かせない有能な奴』ということが判明。
クビを言い渡したパーティーは、主人公のありがたみを知って後悔したり、主人公が『ざまあみろ』と言わんばかりに活躍するシーン等があった。
「なるほど……。ホントは有能なのに採用されなかったり会社クビになった『異世界』の氷河期時代を生きた人たちの怨念が生み出した産物的なアレか」
「いやそこまで言ってないよね清水氏。え、なにそのドギツイ意見? 何かあった? 何かあった?」
俺はヲタのツッコミをスルーして、
「いいなこれ。俺もそうなろうかな」
「清水氏……本の内容理解してる? 追放モノに出てくるのは全員『有能なのにクビになった』人らだからね。清水氏のように本物の役立たずがクビになったところで何も起きないから。逆にパーティーが良くなる一方だからね」
なんか腹立つな。
斬っていい? 王者の剣で斬っていいコイツ?
「まあしかし、追放モノには清水氏のように本当に無能でクビになった後、覚醒して強くなるパターンも……」
「それだあああああああああああああああ!」
俺が叫ぶと、ヲタはビクッと体を震わせた。
「よし、じゃあ俺そうなるわ」
「いやそうなるわって……。まあ……可能性は……」
「ゼロじゃねーだろ?」
「う、うーん、確かに……」
「よーし、決まりだ! じゃあ早速クビになってくるわ!」
「ちょっと待ったちょっと待った!」
ヲタが必死に引き留めてきた。
「自分からクビになるとか変だから!」
「はあ? 何言ってんだよ? さっき読んだやつの中にはあったぞ?」
「そーいうのはイレギュラーなやつだから! 向こうからクビを言い渡された方が物語的に面白くなるからそっちの方向にして!」
なんでテメーが物語的だの言ってんの? 神か何かか?
「いざってときに一回だけ助けるから、そっちの方向で! ね!」
「ったく、しょうがねーな……。しっかし俺のパーティー、二人居るんだけどさあ。そいつらクビを言い渡すような奴らじゃないんだよな。良い奴だし……」
「ふっふっふっ。それなら良い案がありますぞ清水氏」
ヲタはキラリと眼鏡を光らせる。
「戦闘で戦犯行為をしまくれば良いのですよ! そうすれば自然と清水氏の無能っぷりが露わになり、やがてクビを言い渡されるはずです!」
「戦犯行為……戦犯行為か……。なるほど……」
でもなあ……と俺は腕を組む。
「そうすると俺の命も危ないし……」
「良いじゃないですか清水氏。死んだら死んだで面白いし(笑)」
面白くないんだけど。何なのコイツ。
「自分の身を守れるギリギリのラインで戦犯行為をしたらどうなりか?」
「なるほど……うん……よし、それでいくか……」
俺は邪王炎熱……じゃなくてヲタの提案通りにすることにした。