【血の盟約】
城下町を神王が自ら案内し、【創魔界】の国の文化レベルを語る。
中世ヨーロッパ風の、ゴシック建築の町並みである。
交換留学生達は、道行く人々を凝視していた。
人間はいない。
「通貨はドンだ。貨幣経済が最もやりやすい。貴族制度もあるぞ。奴隷制度はない。厳しすぎると、人は能力を落としてしまうからな」
神王は魔王が能力で創った上着のフードを目深に被って、顔を隠しつつ、神聖アルカディア帝国について詳らかに話す。
自分がつくった国だ。思い入れがあるのだろう。
因みに、魔王が能力で創った衣服のことを【魔装】と呼ぶ。
親の顔をして得意げに語り明かす神王を、交換留学生達は微笑ましく見ていた。
「帝国を名乗るからには、軍事に力を注いでいるんですね」
「俺は神王陛下と呼ばれている。皇帝と呼ばせても良いのだがな。帝国なのに王政だ。ふふ、変わっているだろう」
「いつかはアルカディア王国と改名すればいい。王政ならば」
魔王がふっと笑みを浮かべて言った。
「地獄界を統べる、魔王の仰せのままにしようか。どう思う、邪王よ」
「どちらだろうが構わん。お前が玉座に着いている間は、軍事大国になるだろうからな。そう易々と落とせぬ難攻不落の城になるだろう」
「そうとも限らないかもしれんよ」
「他のお二人はどんな国を治めているんですか?」
交換留学生の少年が訊く。
「オレは地獄界。地下世界だ。国を治めてはいない。魔族や悪魔も地上に出ることはある」
「余は国を持たず、【創魔界】すべてを監視するよう、神に仰せつかった。旅人のようなものだ」
へーと交換留学生達は感心する。
「この中で一番強いからな。最強は、身体が矛と盾なのだろうよ」
魔王はレオンに目配せする。レオンはじっと見つめ返すのみで何も返事をしなかった。
「その最強を倒せば、箔がつきますか……?」
最初に話をしに来た少女が訊ねた。
「倒せるはずがない。最強無敵だぞ?」
魔王が呵々大笑した。
「最強も無敵も、弱点がなければ面白くない。そう思いませんか?」
ニヤッと不気味に笑った少女は、すっと短剣を取り出した。
そして邪王レオンの腹に突き刺す。
「な……!」
「何をしている!?」
神王と魔王が慌てふためく。
突然の出来事で気が動転している。
レオンの腹の傷口から、ポタポタと血が滴り落ちる。
邪王レオンは身体全体を覆うほどの結界を常に張っている。
どんな剣も銃弾も通さない、鉄壁の守りを誇るはずだったのに。
その結界をいとも容易く破ってみせた。
この少女は、レオンに手傷を負わせるほど強いということだ。
もしくは、短剣に何か仕掛けがあるのかもしれない。
レオンの結界を容易に破るほどの大それた仕掛けが。
「もらいますね」
ズボッと短剣を抜き、少女は短剣に付着した血を舐めた。
腹に穴の空いたレオンは、少し目元を歪ませて痛そうな顔をする。
レオンの望まぬ【血の盟約】が完了した。
そして彼女はレオンの眷属になってしまった。