神聖アルカディア帝国へ
「いや、オレ達は約百歳だ。見た目ではわからないかもしれぬが。そのような爺さんとまぐわいたいのか……?」
魔王が交換留学生の少女に訊く。
「まぐわうというのは……、少し勇気が要ります」
恥ずかしそうに、目を伏せる交換留学生の少女。
無理もない。
魔王の疑問を払拭できるぐらいに、覚悟を決めて来たわけではあるまい。
ただ三王の話す内容が気になって、来てみただけかもしれない。
交換留学生の少女が、子孫を残すのは、まだ早すぎると思う。
「では、今回は眷属をつくるだけにするか」
レオンが助け船を出す。
「寿命を延ばす装置の開発は、〈時空主〉との連携が必要だ。そう簡単にはできない。地球での刻紋を刻む作業もある。完成させることができれば、是非とも持ち帰って欲しいものだ。そのときは報酬をもらうが」
恐らく、大統領が一番欲しがっているものだろう。
大統領以外の人々もそうかもしれない。
だが、生きることを地獄と感じる人々にとっては、どうだろう。
死を救済だと感じる人々にとっては、邪魔な代物かもしれない。
レオンは一人になるとつまらないので、寿命を延ばす装置を開発するのに賛成しているが。
これで神王や魔王も数千年ほど生きられるはずだ。
魔王の目下の不安は解消できる。
「まずは船を下りて、神王の国へ行こう。神王は多くの神族を生み出したからな。次は魔王の統治する世界だ」
「はいっ!!」
元気良く返事をする少女。
「邪王様は……?」
「ん」
「眷属はいらっしゃらないのですか……?」
「ああ。余はつくっていない」
「焦る必要がないと余裕ぶっているのだ」
魔王が茶化した。
「私、邪王様の眷属になりますよ」
にこりと笑って、自身の胸に手を添えた。
「余に血を飲ませるか、血を飲みたいということか? 何故? 何故【血の盟約】を交わしたい? 眷属になりたいと申す?」
「一番誠実そうだからです。他の人も呼んで来ます」
彼女の返答に、神王と魔王がくすりと笑った。
違いない、と付け足す。
先ほど言葉を交わした少女が、他の交換留学生の人達を呼んで来て、皆で船を下りた。
神王の国、神聖アルカディア帝国へ行く。
そこには、数十万の神族がいた。
皆それぞれ勉学や労働に励んでいる。
巨大な城は真っ白に塗られた要塞のようだった。
いつ何時も戦に備えている超大国である。
神族も魔族も戦闘力は申し分ない。
創世時代の三王が生み出した者達は、どの者も世界の法則を打ち破るに相応しい力の持ち主だ。
地球の常識など、三王の前では通用しない。
人間達が苦労して子を成してきたのに対して、血の一滴で生まれてくる血族。
命が軽く感じてしまうだろう。
痛苦を伴うからこそ、生命の誕生を尊く思わされるのだ。
何も感じず、なんのリスクもなければ、幼児のらくがきのようにポンポンと生み出してしまう。
そして人口が大爆発。
食糧も底を尽きて、終わりを迎えるのが早くなるかもしれない。
まあ、そんな状態になることはあり得ないとレオンは思うが。