理想の世界を体現するために
人間は神と悪魔に試される。
半分人間だった頃、怜音にはよく試練が訪れていた。
どちらか一方を切り捨てなければ、共倒れになっていたときや、どうしようが助けられなかったとき。
自分なんて、なんてちっぽけな存在なんだと気づかされた。
すべての者を救えない無力さが、怜音の心を蝕んでいった。
半妖の、しかも覚醒もしていなかった怜音には、大それた理想だったのだ。
せめてこの視界に入る者、すべてを救おうなどと。
大きすぎる理想は、やがて身を滅ぼす。
怜音は自分で自分を殺してしまったのだ。
その結果が、弟と同い年くらいの幼い女の子を庇って死亡。
恨みはない。
だけど、心残りはあった。
未練があった。
もっと強かったら、選択肢なんて要らない、全部救う! それができていたかもしれなかったから。
今は昔より大分強くなった。
前世と同じような状況に陥ったとき、邪王レオンは理想を体現できるのか――。
まだまだ知らないことが山ほどあるし、世界を変えていかなくちゃならない。
どうか、いつまでも平和で――。
「あ、そうだ。神王様。今度神族を連れて来てくださいよ。魔族と神族仲良し作戦をやるんですよね?」
アルメアが思いついたことを口にした。
「そうだが。ここはマンモス校と言っても、国民全員は連れて来られない。一部の者だけ連れて行ったら、不公平だろう? 交換留学は例外として許してもらっているが」
神王はもっともらしいことを言う。
「ふーん。じゃあ僕の国で音楽祭を一緒に楽しめばいいんじゃない?」
レオンの提案に、二人はビックリした顔をする。
そして顔を突き合わせて、「「その手が」」「あったか!」「ありましたか!」とハモった。
「魔族も悪魔もまだ千人しかいないからな。いずれはもっと増やすつもりだが、今のうちに仲良くしておくのも悪くない。全員に招集をかけよう」
魔王はフッと微笑んで、レオンの提案を聞き入れた。
「邪王の血族とも仲良くなるチャンスやもしれん」
「そういえば、そうだな。三王とその血族の栄光を祝して、乾杯しようか」
「今日は飲まないからね。明日はみんなの演奏を聴くんだから」
「飲んでばかりだな、神王。酒に溺れるのは、背信行為ではなかったか?」
「そんな狭量な神ではないぞ。祝いたいときは盛大に祝えとおっしゃるに違いない」
「いい神様ですねー」
交換留学生の人間の少女が言った。
「だろうだろう。俺の神は我々には慈悲深いのだ」
神王が得意げに話す。
飲んでいないのに、ほろ酔い気分らしい。
神王は無類の酒好き。
匂いすら想像で補える、おかしな特技を持っている。
「そうですね。でも宇宙人には優しくないです。こちらの神様はどうして宇宙人を毛嫌いするのでしょう」
宇宙人の交換留学生の男子が、独り言のように呟いた。
「得体の知れないものだからだと思うよ。僕の眷属になった宇宙人も、意味不明だったし」
おしおきされたがりの子。
「そうなんですか……。種族が違いすぎるとわかり合えないのかもしれないですね」
意味深な言葉を吐く交換留学生の宇宙人の少年。
レオンは同じ種族であってもわかり合えないことを知っていたので、口を噤んだ。
そして夜は更けていく――。




