血と臓物を好む悪魔
「僕はアメリアで音楽祭をやるよ。みんな楽しんでくれると嬉しいな」
「悪魔も楽しめる音楽祭ですか? 邪王様」
「楽しめないこともあるんだ」
「ありますあります。神への賛美歌などを歌われたら、頭が割れるように痛むのです。我々は悪魔ですからね。魔王様を唯一神とする」
「だけど、僕にも様付けしてるよね」
「同格とは、即ち魔王様が三柱いらっしゃるようなものです。矛盾していません」
無茶苦茶な論だなとレオンは水を飲みながら、ひとりごちた。
つまり、自分も魔王だと思われているということか。
強さは同格ではないのだが。
しかし、崇拝されているということは、どんな命令もすんなり聞き入れるのだろう。
レオンは怜音であった頃も、他者に命令する立場だった。
上に立つ者として、皆の手本になるように生きろと父親に言いつけられた。
争いの火種を撒いた張本人だったが、父親を憎んではいない。
日本の妖である父親が、アメリカ人のノーマルの女性を好きになって、子を成した。
それが鬼山怜音だ。
そののちに、母親が病で死に、新たな母親を連れて来た。
それが怜音の弟の母親、日本の妖だ。
兄が混血で、弟が純血。
真祖を当主に据えるはずだった鬼山家のルールが、怜音の代で変わった。
混血であろうが、当主になれる。
弟よりも兄の方が当主に相応しいと鬼族の皆は怜音を持ち上げた。
当然のように、弟は兄である怜音を憎み、家を憎んだ。
自分自身が当主になりたかったからだろう。
怜音は当主を譲ってやるつもりだったが、当時まだ五歳の弟には譲れなかった。
レオンは上に立つ立場に飽きているのだが、周りが放ってはおかない。
鬼山怜音の魂は高潔かつ公正。
自然と大役を任されてしまう器なのだ。
レオンが拒めば拒むほど大役が待っている。
ある種の呪いである。
解くことは叶わない。
しかし、最近は上の立場であっても、楽しめる方法を模索し始める努力をした。
無礼講デーをつくるなど。
敬語を使ったら、罰ゲーム。
「そういえば、あたし達まだ一歳の赤ちゃんでした。成長した姿で生まれるから、勘違いしちゃいますね。ばぶーばぶー」
「無理矢理赤子キャラにならなくていい。アルメア。それに、我等は皆生まれたとき、人間年齢に換算すると六歳児なのだ。赤子ではない。幼子だ」
魔王が目を閉じて突っ込んだ。
いつもはボケ役なのに。
何故六歳なのかは不明だが、神がそう決めたので、生まれたときは皆六歳児である。
「はいっ! 魔王様!! アルメア、普通の悪魔になりますっ!!」
敬礼して、にこやかに笑うアルメア。
普通の悪魔とは、どんな悪魔だ。
「普通の悪魔とは?」
神王が問うた。
「魔王様に心身を捧げ、血を献上し、血の湯船に浸かることです。処女の生き血は美容に良いとされてまして……! 魔王様には、いつまでも若く、美しくいていただきたいので!」
「なんだか、グロテスクですね」
青い顔をした人間の交換留学生の少女が口元を覆った。
「魔王教では、血は神聖なものとして扱う。断じてグロテスクなどではない! その血を粉末状にしたスーパードラッグも、我々には良いものなのだぞ」
「勝手に血を抜いたりしないよね。人を襲ったりして……」
「もちろんですっ!! 任意ですから。血と臓物を好む、我々悪魔にもきちんとした戒律が存在します。人間を無闇に襲ってはならないとか。誘惑はいくらでもしちゃいますけどね」




