悪鬼羅刹を滅さんがための、殺戮マシンのようで
固唾を呑んで交換留学生の人間の少女は話を聞いていた。
「そんな……そんなことが……できるんですか? 間違って悪くない人も殺してしまいそうですよ?」
「そこにいる邪王レオンは、悪鬼羅刹を滅さんがために生かされた者だ。奴が手にかけるのは悪のみ。正義を滅ぼすことはできない。奴自身が正義の味方だからだ」
指を差されて、レオンは少し反応する。
邪王という呼び名も邪な王ではなく、邪な感情を引き出す王という意味だ。
それは文字通り自分自身を囮として、悪しき者を裁くための刃を隠し持つ王に相応しい名。
邪王という名も、鬼山怜音と同様に血で汚れるのだろう。
「正義の味方も悪者にとっては、悪と同じ。お前達宇宙人にも正義があるのだろうが、それも我等とて同じことよ。互いの正義がぶつかり合えば、戦争が起きる。わかるな? 我は正義の名の下に、悪を滅殺したに過ぎない。我はこの世界を守る神としての役目を果たしただけだ」
この世界を守りたい――。
その思いはレオンも神と一つだ。
だがしかし、この神の考える正義の味方は非情だ。
レオンのような優しき王に、その務めは務まるのかどうか。
「僕は正義の味方だったんだ。へえ。嬉しいのか、悲しいのか、自分じゃよくわからないな。悪い奴を拷問していた頃とたいして変わらないじゃないか。新しい生では、もっと楽に生きたかったのに」
「それが宿命というものだ。因果の鎖からは逃れられない。お前自身が神になってしまえば、話は別だがな」
そう言って、顕界していた創造神は消えてしまった。
多くの爪痕を残して、残酷な神は天に上っていってしまったのだ。
神王は神が抜けた反動でふらついたが、すぐに姿勢を正し、皆を見回した。
交換留学生の宇宙人達は涙を流していた。
人間の彼らも無力さで悔しそうな顔をしている。
そして、亡くなった彼らのお墓を作りたいと切実に言葉を紡いだ。
【神授契約】を破棄された神王の瞳は、元の金色に戻っていた。
神に身体を貸し与えていたときの記憶が一切なく、目の前で泣いている交換留学生達に戸惑いを隠せないようだった。
「何故泣いているんだ? 他の交換留学生はどうした?」
「神様が宇宙人を三人殺しちゃったから、いないんです……!」
「それでお墓を作りたいってさ。神王の国で作ってもいい?」
「それは構わんが……、俺の意識のない間に大変なことが起きたみたいだな」
「うん。結構シビアな神だよね、創造神。僕のことを正義の味方だと言っていた。悪しか殺せないって。まるで完璧にプログラムされた殺戮マシンだよね」
「そんなことはない。お前はちゃんと生きているし、感情だってある。機械などでは、断じてないぞ!」
神王はレオンの両肩を掴んで揺さぶった。
レオンは力なく笑った。
前世と同じような道を歩むことになるとレオンは確信してしまったのだ。
血で血を洗う、暗くて深い闇の底に自分自身が沈んでいくのを。
誰も救えない、レオン自身の重苦しい暗黒の闇。
ずっとひた隠してきたが、もう限界だった。
闇夜で魘されることもあった。
「ありがとう。君達がいれば、僕が闇に囚われることもないと思う。ずっと一緒だったもんね」
肩に置かれている手にそっと手を乗せて、レオンは目を閉じた。
二百年以上一緒だった。
一緒にこの世界を盛り上げてきた。
短い間だったが、冒険の旅にも出た。
色々な祭りに参加して友情を育んできた。
いや、友情よりももっと深い、家族に似た感情を抱いている。
みんなで強くなろうと手を合わせて強くなった。
そのすべては、悪を滅ぼすためだったのか……。




