唯一無二の存在
「どうやら地球では、我らの力は制限されるようだ。刻紋なしだからか」
魔王が目を閉じて言葉を紡いだ。
「神による抑止力か」
レオンは顎に手を当てて考える。
地球の神も【創魔界】の神同様、強大な力を持っていると考えていいだろう。
日本神話の神、天照大御神、北欧神話の神、オーディンが実在するならば、相当強いはずだ。
神の力は信仰によって上下する。
広く普及しているほど、その神は強い。
だが、神であっても殺せない存在というものも在る。
邪王レオンがそうであるように。
もし、レオンが神と戦ったら、不老不死であるレオンが最終的には勝つかもしれない。
そのぐらい、神とそれ以外の唯一無二の存在の力量を計るのは難しい。
「魔王の使う炎は地獄の炎だものな。俺でも食らいたくはない」
「流石魔王……か。いや、地球で力を使えば、人もろとも溶かしていたのかもしれぬ。なんせ、人間を恐怖のどん底に叩き落とす地獄の業火だからな」
ふっと笑みをこぼすレオン。
「邪王も一度食らってみるか?」
「遠慮しておく」
想像を絶するほどの痛みに耐えられるかどうか。
痛みなどない方がいい。
しかし、生き物である以上、身を焼かれるような痛みから逃れる術はないのかもしれない。
何事にも例外は存在するが。
「魔王、お前の寿命だが、〈時空主〉を呼ぶ。時を止めるか、時を延ばすかはわからん。しかし、お前の望みを叶えてやれるといい……と思っている」
「邪王は人が良いな。その名にそぐわぬ無害ぶりだ。……いや、人じゃなかったか。【血鬼】よ」
「そうだ。余は【血鬼】。お前達よりも永く生きるだろう」
永遠の生は永遠の牢獄に閉じ込められるのに等しい。
いつか死ぬとわかっているから、人は頑張れるのであり、何かを成し遂げようとする。
成し遂げなくても良いと考える者はいても、大抵は何か意味のあることをしようとするのが人だ。
永遠に苦しみが続くとわかっていれば、恐怖でどうにかなってしまうかもしれない。
寂しさで身を焦がされるかもしれない。
邪王レオンは、永遠の生を退屈だと感じる。
せっかく育んだ友情も、何もかもすべて最後には塵となって消え失せてしまうのだから。
何千、何億年と生きていくほんの一瞬。
その中ですべての者は戦って、あがいて、生きるために必死に何かを愛そうとする。
時には、生きるために仕方なく奪うしかない者もいるだろう。
レオンが瞬きをするような短い時間の中で。
それができないレオンには、永遠の生というものが、どれほどの地獄かを思い知らせてやりたくなった。不老不死を夢見る誰かに。
終わりがあるから始められる。
永遠の生は、つまらないゲームになってしまう。
もし、永遠が約束されていれば。
最後は必ず孤独になる。
それが強くなりたいと願った鬼山怜音への罰だったのかもしれない。
神頼みするのならば、もっと違うものを叶えてもらえば良かった。
唯一無二の友情を育める人物だとか。
神王や魔王はそれに匹敵する者ではあるが、前世では同じ種族の友達がいたから。