神王の揺るがぬ決意
船の中で三王は談笑する。
「あっちの世界は時が経つのが早いから、こっちだと異様に長く感じるね。二人はこの世界、気に入った?」
「ああ。この世界なら、オレ達全員無双できる」
「戦うことしか頭にないのか、己は」
レオンの鋭い突っ込みが炸裂した。
「俺はアルカディアに人生捧げた身だからな。たまの観光なら良くとも、骨を埋めるならば、断然アルカディアだ。知らぬ地で死にたくはない」
へぇ、とレオンは感心した。
神王は女性と関係を持つことも禁じているらしい。
徹底した漢っぷりだ。
ちょっとカッコイイなとレオンは尊敬の念を抱く。
「僕は女性と結婚するつもりだけど。神王はずっと独身を貫くんだね」
「もし俺が他の女とどうにかなりそうならば、鬼の形相で追い詰めてくるだろう。女は恐いと相場が決まっている。俺は冒険はしない主義だ。勝ち目のない戦いでは」
神王の結婚しない理由は、現実的なサラリーマンのようだった。
王なのだから、一夫多妻制にすればいいだけなのに、真面目な神王は一途に一人だけを愛せなかったらとリスクを考えている。
確かに女は恐いが、男も恐い。
嫉妬に狂った男の恐ろしさは、怜音のときに体感している。
所謂モテるタイプの怜音は、一部の男に目の敵にされていた。
ラブレターはビリビリに破かれ、脅迫文を送りつけられたこともあったなあと思い出す。
まともに学校に通ったことがないので、いずれも屋敷を特定されてからだったが。
ストーカーも大量発生していた。
前世のときから、悩みの種であった。
モテない男は辛いだろうが、モテる男も悩みは尽きないものだ。
「オレも暫くしたら身を固めようと思う。傍らに女性がいなくては華がないと思っているのでな。邪王は常に傍らに女性がいたようなものだからな。オレも負けてられん」
「そういうところで張り合わなくていいから!」
レオンはずっこけた。
闘争心剥き出しの魔王は、天然のギャグをぶちかます。
こういうことを真顔で言ってのけるのが、魔王。
「結婚論争に張り合えなくて悪いな。オレは一生童貞だ」
「なんか、超しょーもないこと言ってない……?」
「一生童貞は悲しいと思うぞ。ムスコは使ってやれ。なんのための第二生殖機能だ。まさか、血だけで全国民を生み出すつもりなのか!?」
「そのつもりだ。俺の覚悟は決まっている」
カッコつけても無駄である。
モテない男の言い訳にしか聞こえないので。
「神族は崇高なる存在なんだ。性交渉をよしとしない潔白さを持っている。欲に溺れぬ我が気高き心よ」
神王は胸に手を当てて、もう片方の手で天を仰いだ。
新興宗教の教祖みたいだった。
怪しさ満天だ。
「神に身を捧げる覚悟ってやつ? 真面目だねえ、神王は」
レオンは片目をつり上げて、呆れた表情で言った。
神に身を捧げても、返ってくるのは神の愛とは限らないのだ。
神に与えられるのは試練ばかり。
愛なんて不確かなものを与えてくれるならば、この世界から争いはとっくの昔に消え去っている。
だが、苦しいからこそわかることもある。
強さとは、力じゃない。
優しさなのだと。
優しさという強さを失えば、誰にも勝てなくなる。
結局、敵は自分自身の心の中に在るのだ。




