三千年の交換留学をしよう
「三千年。いつも同じ国に行くとは限らないが。余が初めにアメリカに来たのは、アメリカが世界の中心だと思ったからだ。余の前世の故郷とも言う」
レオンは三本指を立てて宣言した。
「三千……!?」
大統領は想像を絶する長い時に、驚愕した表情を見せる。
三千年と言っても、あっという間だ。
【創魔界】の時の流れの早さならば。
大統領は【創魔界】の存在自体を知らなかったので、驚きを隠せないのだろう。
地球の三千年は果てしなく長いものだが、【創魔界】は違う。
認識をしっかりとしたものに変えさせなければならない。
「この世界を模した世界が【創魔界】だ。地形もよく似ている。この世界に来たのは、本格的にこの世界を模した世界に創り変えようとしたからだ。まだ約百年ほどの歴史しかない。国も神聖アルカディア帝国という国一つしかない。余はあと二十九回精鋭をこちらに連れて来る。先ほど述べた通り、ずっとアメリカに来るわけではないが。それと、不老不死の秘薬をつくることはできないが、寿命を延ばす装置ぐらいなら、開発できるかもしれない。共に最先端を学ぼう」
すっと手を差し出すレオン。
「ああ。感謝する」
大統領はぐっと手を握り返した。
だが、五次元の力を使うには、【創魔界】とリンクさせなければならない。
具体的には、刻紋と呼ばれる紋様を刻む必要がある。
必要な場所でたった一つ刻むだけでいい。
そうすることで、五次元の世界の力を行使できる。
魔王の地獄の炎も刻紋なしでは、通常の人間界の炎と変わらない。
だからSPの手が無事で済んだのだ。
本来の力を発揮していれば、腕ごと溶けていた。
こうして秘密裏に、【創魔界】と地球の大規模な交流が行われることになった。
平民達には知らされず、ごく一部の限られた人種のみが知り得る機密事項として。
レオン達は地球に一週間滞在した。
それから次元移動の船に乗り、三王達は談話する。
「オレはそんなに長生きできないぞ。神王ですら三千年も生きるとは思えん」
「お前達の寿命を延ばす装置を開発する。余はお前達を連れて行くつもりだ」
「それならば〈時空主〉を口説けばいい」
と神王が助言する。
「その手があったか」
レオンはぽんと手を叩く。
「それより邪王よ、貴様は故郷が恋しくはないのか。元地球人なのだろう。アメリカの血もあったろう。何も思うことはないのか」
魔王が訊ねてくる。
「恋しい? 余は地球に未練などない。魔王、お前が行きたいと言い出したから、ここに来たのだ」
人間が好きだと思っていた。
だからボランティア活動にも積極的に参加した。
けれども、鬼山怜音はその出自ゆえに、人間に好かれることはなかったのだろう。
どんな善人だろうと、お金に勝てる命などないのだから。
人間は弱くて醜い。
誰かの犠牲なしに幸せになれることなどない。
短い生涯で知ったのだ。いや、思い知らされたと言うべきか。
人間の闇を。果てしなく暗くて深い闇を。
救いようのない下衆もいる、と。
「だが日本にも行くのだろう? まさかアメリカだけとは言うまいな。先ほどはそう言っていなかったが。地球旅行は案外楽しいものだ。もっとオレを楽しませろ、邪王。次の地球旅行はどこになる?」
「旅行じゃない、留学だ。しっかりと学んで来い」
「学ぶと言っても、学問は難しいな。【創魔界】では、命令すれば簡単に応えるのだが」
「地球でも通用したのだから、どちらでも簡単だっただろう」
神王がジトッとした目で告げた。
「オレが命令した通りではなかった」
「なんだと!?」
「オレは一瞬で燃やし尽くすつもりだった」