雪鬼のブリザード、嬉々として
「愛は相手の気持ちを慮って生まれる情でしょう。僕の気持ちを全面的に無視していると思うんだけど?」
レオンは腕を組んで片目を閉じる。
鬼族達はまだ土下座したままだ。
「怜音様のお気持ちはわかります。ですが、我々に……捨てられた妖である我々に、行くところなどないのです。貴方様にすがるしか、生きていく術を知らないのです」
雪鬼は血を吐くような面持ちでレオンにぶつかっていく。
「そうだったね。うちは捨て子を拾っていた。鬼のね。僕が当主だった頃も、率先的に行っていたことだよ。他にも、貧しい人の支援もしていたっけ。けど、それなら僕が僕の代わりを用意しよう。僕に模した人形をつくる。きちんと自分の意思で動けるように。それなら、文句ないでしょ」
【創魔界】で新たな血族を生み出して連れて来ることを示唆した。
レオンが譲歩できるのはここまでだ。
新たな故郷を去るつもりなどない。
あそこでは深い愛を込めて血族達を生み出したから。
定められたレールの上を走る人生だった前世とは全く異なる。
神という上位存在がいても、今生は前世とは比べ物にならないほど幸福に満ちている。
長年の鎖を断ち切るためならば、なんだろうとしてやると思うほどには、気に入っている。
自分の意思で自分の国をつくったのだから、当然である。
「いいえ。私達は怜音様ご本人に忠誠を誓う身です。人形などという偽者には、いくら怜音様がつくられたものであっても、従う気にはなれません」
雪鬼が皆を代表して答えた。
皆はもう一度深く頭を下げている。
「これ以上どうしろと」
レオンは困惑した。
「では、たまにこちらへ来て指揮するのは、いかがですか? 普段は【創魔界】で王としての責務を果たし、たまの休暇にこちらへ訪れて、鬼族の皆さんとこうしてお茶を飲むなど」
交換留学生の少女が提案した。
なるほど、それなら良い案だ。
「それならまあ……いいけど」
レオンは頬をぽりぽりとかきながら、ぶつくさ言うような感じで呟いた。
「真ですか!?」
雪鬼はレオンの手を取って嬉々とした。
甲高い声になっている。
「僕がいない間は古株として雪鬼、お前が皆をまとめるんだ。拷問はしなくていい。お前には似合わない」
「若大将様……」
喜びのあまり、雪鬼は周囲を雪で覆った。
まだ春なのに。
あとで掃除をするのも大変そうだ。
「もう若大将じゃないし。若くもないし」
既に現在のレオンは約二百歳。
雪鬼が二十代なので、物凄い歳の差である。
「いいえ。怜音様はいつまで経っても、私達の若大将様です。そういう運命なのです」
雪鬼はニコニコと笑い、レオンの手を自分の頬に当てた。
「雪鬼は時々気持ちいい温度になるね」
「光栄です」
「良かったですね、邪王様」
「うん、ありがとう。君のおかげで話がまとまったよ。君がいてくれて助かった。もっと長話になるかもしれなかったから」
「いえいえ、お役に立てて良かったです」
交換留学生の少女は手をブンブンと振って、優しげな微笑みを返した。




