邪王レオンのプライド
「あの、わたし達は鬼山怜音さんのことは知りませんが、邪王レオン様のことなら知っています」
交換留学生の少女がおずおずと話をした。
日本語を話せるようだ。
「ぼく達、【創魔界】という世界に行って来たんです」
「とても楽しくて、面白かったですよ」
「そこで邪王様は、アメリアという国をつくったんです」
交換留学生達が【創魔界】での百年を物語る。
レオンの勇姿を傍で見ていた彼らはレオンの肩を持つ。
当然ながら。
「アメリア……? なんだか、アメリカと似てますね」
「そうだよ。少し似せてつくったから」
「怜音様の故郷でもありますね。転生されても、恋しいものはあるのでしょうか。前世の記憶は残っているのでしょう?」
「さあね……。恋しいと思うものは特に何もないかな。記憶はあるよ。あまり深く考えないから、恋しいものがあっても、話さないと思う」
レオンは頬杖をついて、茶をぶくぶくと泡立てた。
雪鬼はレオンのこどもっぽい仕草を見て、微笑んだ。
「オレ達と同列の王なのだ。この島国の小さな王とはスケールが違う。いずれは神として崇められる存在かもしれんぞ。そのような邪王に、不敬を働くつもりなのか、貴様らは」
「既に我等にとっては、神同然です」
「そんな大層なものじゃないって」
「またまたご謙遜を」
親戚のおばさん同士みたいな会話である。
もうレオンの方が年上だが、雪鬼は大人なので、見た目がこどものレオンより年上に見える。
だから一人前のレディとして扱う。
レオンは紳士的である。
「邪王様が神様になると、邪神様になるのですかね。本人は善良なのに邪とは……」
「邪な感情を引き出す王様なので、ある意味魔性ですよね」
「魔王様と邪王様、どっちがエロいんですか?」
「そりゃ物語によく出てくる魔王様より邪王様の方がエロいでしょう」
「好き勝手言うなあ」
交換留学生達の言葉に、レオンは脂汗をかいた。
「それで、ネクロマンシーをされている僕の遺体はどこに? 見つからないけど」
船の遠隔操作で遺体を捜そうとしているが、何かに阻まれて捜し出せない。
これも悪い宇宙人の仕業だろうか。
「勝手に動いてしまうのです。発信機をつけておりますが、そこだけは難点ですね」
手がかりがあって、良かった。
だが、仮にも当主の身体に発信機をつけるのはいかがなものか。
ペット扱いしていないか? とレオンは雪鬼を少し睨みつけた。
すると、雪鬼が花のような笑顔を向けてくるので、調子を狂わされた。
「ふーん……。操れるわけじゃないんだ。けど、僕の身体なんだから丁重に扱って欲しい。っていうか、なんで火葬してないの。いくら次期当主の存在が必要って言っても、ネクロマンシーはご法度でしょうが。なんで過ちを犯したの」
レオンは有無を言わさぬよう、鬼族達を睨み据える。
日本の最高権力者を多数決のようないい加減な方法で決めるわけにいかないのはわかる。
だが、死者にいつまでもしがみついているなんて、死者に対して無礼だ。
その怜音の身体は、安らかな眠りを必要としているのに。
尊厳を破壊する行為をレオンは怒っている。
死者には花を手向けて欲しい。
鬼山怜音としての生は、あのとき終わりを告げたのだから。
「申し訳ありません……!」
鬼族達は一斉に土下座する。
レオンは更に憤る。
湯呑みを強めにテーブルに置いた。
「謝って済む話じゃないから、こうして怒ってるんだ。それに僕は、土下座は嫌いだ。愚かな行為をその程度で赦してもらおうという魂胆が丸見えだから。僕を舐めているよね?」
レオンは冷ややかな目で、かつての同胞を見つめた。
雪鬼よりも冷たい空気を孕ませるような、冷え切った目だ。
燃える炎のように紅い瞳なのに、凍てつく氷で刺すような。
レオンのプライドは激高。
だから当主に相応しいと思われている。
どんなときも、厳しくも優しい主だったから。
今も変わらないところだ。
「舐めてなど……おりません。愛しているのです……。たとえ、骸に成り果てても……」




