ダークヒーローの再臨
鬼族の仲間達を呼んで来ると雪鬼は言っていたが、外で立ち話をさせるのは失礼なのでと屋敷の中に案内された。
鬼山家は数百の多種多様な鬼が存在する場所。
だから鬼族と呼ばれている。
国家の最高権力者として、裏社会も制圧するほど有名な一族である。
鬼山怜音の首には、数千億がかけられていた。
他国の戦争犯罪組織絡みで。
拷問一家である鬼山家は血で血を洗う戦が多かった。
まるで戦国の世に生まれた武将のように、天下を統一することを目的としていた。
日本が一見平和だったのは、鬼山家が悪を影で裁いてきたからだ。
すべての悪を一手に引き受け、情報を吐かせる拷問でこの国の天下を取った。
表向きは大企業の社長である。
悪鬼羅刹を滅さんがために、ダークヒーローを演じていた。
ある意味、正義の味方である。
だが実際は、そんなことに手を出さずに慈善活動だけをやっていたかったのだ。
なまじ才能があるばかりに、白羽の矢を立てられてしまった。
怜音には、組織を纏める才能があったから。
上に立つ者として清濁併せ呑む器があったから。
今もその才能は失われていない。
王としての職務も全うしている。
約五十畳の応接間に連れて行かれたレオン一行は、そこでたくさんの鬼族の面々と話をすることになった。
雪鬼が木製のテーブルの上に、人数分の茶を出した。
淹れたての熱々だ。
「どうぞ」
「ありがとう」
他の皆も礼を言って、息を吹きかけてずずと少しだけ飲んだ。
「怜音様が好きだった、有機栽培の緑茶です」
レオンは少しだけ照れた。
湯呑みで顔を隠す。
「怜音様! お久しぶりでござんす!」
禿頭の大男が雪鬼の隣に座りに来て、頭を下げた。
「お前達の事情はわかっている。だが僕にこの家を継ぐつもりはもうない。初めから好きでやっていたわけじゃなかったし。才能があるからって、好きで才能があるとは限らないだろう。押し付けは脅迫となんら変わりないぞ」
レオンは茶を啜りながら、厳しく叱咤した。
「僕は、前世の僕は、人助けがしたかったんだ。あんな血腥い拷問なんかじゃなくて」
レオンは死ぬ前に言えなかったことを鬼族の仲間達に吐露した。
鬼族は黙って元当主の話に耳を傾けた。
「ここに戻って来たら、またその繰り返しだろう? 恨まれて当然のことをしてきたんだ。悪い奴等からね。殺されるのも宿命だったんだって、受け入れたよ。人生が短すぎるとは思ったけど」
レオンはふうと息を吐く。
人間に裏切られた。
だがレオンは恨んではいない。
あの生活から抜け出せて、漸く肩の荷が下りたのだと思ったから。
ある種の救いだったのだろう。
「拷問なら、私が代わりにすべてを行います」
「ダメだ。雪鬼は加減を知らない。いつも殺してしまっていたから、任せられなかったんだ。それに、雪鬼は女性だろ。血化粧なんて、雪鬼には似合わないよ」
「怜音様……!」
感激したように口元を覆う雪鬼。
アメリカ文化も脳裏に焼きついているので、レディファーストを素でやるレオン。
なので怜音のときから、非常にモテていた。
男女問わずなのが恨めしいところ。
「怜音様はやはりお優しい」
「それでこそ我らが大将」
「優しさの中に厳しさも持ち合わせていらっしゃる……!」
鬼族のみんなが、口々にレオンを褒め称える。
さながら鬼山怜音信者の会みたいなのが鬼山家である。
「だから、褒めてもなんにも出ないってば」
レオンは昔の調子に戻ったなと冷や汗をかいた。




