不老不死は不幸の始まり
屋敷の中に連れられて、客間に案内された。
高価なシャンデリアが天井にぶら下がっている。
絵画や家具類も全部1万ドルを超えそうだ。
一体どれほどの財産を持っているのか、想像に難い。
客間に着くと、ふわふわの黒いソファに全員座らされた。
SP達はレオン達を取り囲むようにして、後ろ手を組んでいる。
だが、地獄の炎を見舞われ、銃が効かないことはわかっているはずだ。
とりあえずそこにいるだけで、万が一があったとき、大統領を守れる者はいない。
レオン達がたまたま友好的な外交を望んだから良いものの、本来ならば全員死亡の結末を辿っていたかもしれない。
大統領が突然現れた敵と見なしてもおかしくなかった。
レオンに交戦の意思がないことを悟った彼は、見る目があるのかもしれない。
アメリカの大統領は日本の総理よりも命を狙われやすい立場だ。
なんせ、地球では世界の王に等しい権力を持つ者だから。
【創魔界】の王達と地球の王たる存在、対等な立場で話を進められる。
レオン達は腹を割って話した。
地球上のあらゆる情報を教えて欲しいと。
そのために交換留学をしようと。
百年ごとに地球のどこかに遠征しに来ると。
こちらの時の流れが凄まじく早いので、できるだけ生に執着しない者がいいと条件を出した。
「しかし、不老不死になることはできるのか? 貴殿のように」
「余は地球からの転生者。裏社会の長、鬼山一族の若大将だった。それが余の前世。不死であることは認めるが、不老かどうかは存ぜぬ」
「貴殿を研究すれば、不老不死になれるかもしれない」
「余の血を分け与えても、眷属になるのみ」
邪王レオンが唯一無二の存在であるのは、不死だからだ。
存在そのものが強烈すぎて、誰も倒せない。
神でさえも、レオンを倒すことは不可能。
「天下の大統領が不老不死の秘薬を手にできれば、怖いものなしか。しかし、不老不死と言っても、痛みは感じるものだ。永遠の生を後悔するほどの痛みもな」
「不死であれば、暗殺も何もかも怖くはないではないか。私は貴殿が羨ましい」
羨ましい、その言葉はレオンを苛立たせた。
何も知らないのに口走る、否、何も知らないからこそ出てくる言葉だ。
鬼山怜音が願ったのは、もっと強くなること。誰よりも強くなること。
決して死を迎えたくないという願いではなかった。
神の悪戯により、願いではなく、更なる呪いをかけられた。
欲しいものは、中々手に入らないものだ。
レオンは、永遠の生が欲しかったわけじゃない。
代われるものならば、代わってやりたいとも思うほどの地獄だ。
誰も同じ時を歩めないのだから。
唯一無二は、永劫の不幸とも結びつく。
「この職に就いていると、命がいくつあっても足りないことがある。悲しいほどに」
「影武者を何人も用意すればいい。クローンぐらいつくれるだろう」
と、魔王ベアルト曰く。
「つくっている。しかし、連中はいつでも私を殺せると脅迫してくるのだ。奴らに対抗する術などあるのだろうか……」
「ならば護衛をつけよう。今回の申し出を受けてもらう代わり、この神王ザッハが其方を守る。俺自身が守るのではなく、俺の子孫らが、だがな。我らには神がついておられる。其方にも神の加護があらんことを」
「それはありがたい」
大統領の顔が明るくなった。
「して、期間はどの程度に」