眷属の朝露浪漫を使いこなせ
「君には役職はなかったね」
あられもない姿になったが、気を取り直して咳払いを一つした。
神王と魔王の頭には、たんこぶが三つできあがっている。
「わたしに役職をくださるのですか? では、お世話される係がいいです。なんなら、おしおきされる係でも……」
「そんなものはない!」
ドンッと机を握り拳で叩いた。
「君にも何か任せようかと思って。不公平だろ? 平なんて」
両頬を支えて、レオンはにっこりと笑う。
脅しの表情だ。
「はぁ……では、どんな役を……」
「今本を作ってるんだけど、全員に配ること。配本係」
「結構こき使いますね」
「そりゃ勿論。使えるものはなんだろうが使えって言うでしょ。君も使わなきゃ眷属になった意味がない」
にこにことレオンはご機嫌に笑う。
「わたしのこともちゃんと見てくれているのですね。あ、でもわたし的には、塩対応でも嬉しいです……!」
手を組んで神に祈りを捧げる清廉な少女のように、瞳を輝かせる朝露浪漫。
だが紛うことなき変態である。
付いていけないレベルの。
「一応、国の王様になったわけだからね。配下の面倒はきちんと見なくちゃいけない。たとえ、本意ではなくとも。君が悪さするのは、おしおきして欲しいからだよね? じゃあ、おしおきしなくなるとどうなるの?」
「死にます」
正しく死んだ目で即答した。
「うぇっ!?」
予想外の返答で、レオンは素っ頓狂な声を上げた。
眷属が死ぬと主にも異変が起きる。
それを知っていて、そんな答えを出すのか。
彼女はとんでもないマゾヒストであるが、突き抜けたサディストにも見えるリバーシブルタイプ。
「面倒な眷属を持ったな、邪王。俺だったら、吐きそうだ」
「オレも手に負えん輩だな。邪王で良かった。オレ関係なし」
「さらっと押し付ける気満々なの、ムカつくんだけど」
レオンは苦い顔で書類をぐしゃっと握り潰した。
「主様はその方をずっと見張っておかなくてはいけないのですね。確かに、面倒そうです」
イコロスが朝露浪漫を見て言った。
初対面なのに酷い言い様だ。
しかし血族とは記憶を共有しているので、初対面といえども、家族のようなもの。
だからイコロスも遠慮がない。
血族も眷属も似たようなものだ。
「ずっと見張ってくださるんですかっ!?」
朝露浪漫は水を得た魚のように、歓喜の叫び声を上げる。
まるで発情期の犬みたいに。
宇宙人の扱いがこうも難しいとは、レオンは思わなかった。
なので、絶賛困り中である。
「主様は執務が忙しいので、ずっとは無理だと思います。それに、貴方に割く時間が多ければ多いほど主様はお疲れになるでしょう。全く、宇宙人とは相容れぬものです。主様、たまには我々の背に乗り、旅に出ましょう。気分が晴れます」
アクロスがフォローした。
レオンもにこりと応える。
「だけどこの世界はまだ旅を堪能できるほど国がないんだよね。誘ってくれるのは嬉しいんだけど」
三王で旅に出たときも、美しい景色を見に行くぐらいで、国を渡る醍醐味がなかった。
なんの面白味もない旅だったが、小さな思い出なら、この胸にずっとある。
「つくればいいじゃないか、どんどん国を。活気に満ち溢れた世界を。貴様とオレ達で」
魔王がフッと邪悪な笑みを浮かべる。
良いことを言っているはずなのに、笑った顔が邪悪になるのが魔王の面白いところである。




