自由の国アメリカ
地球はパラレルワールドです。大統領が現実世界と違うように。
【創魔界】と地球との距離は近い。
【創魔界】は、地球に模した世界である。
アルカディアという国が地球にはないだけで、海の面積も大陸の面積もほぼ同じ割合を占める。
人間は一人もいないが、人間とほとんど変わらない見た目の種族が生きている。
地球人がこちらに来たら、地球と大差ない世界だと認識できないかもしれないほどには、似ている。
地球人が移住しようと考えるほど、この世界はあらゆる力に満ち満ちている。
悪さをする種族を見張る役目、【創魔界】を監視する役目を、邪王レオンは課せられている。
実際に裁く役目は、魔王ベアルトだ。
地獄に連れて行って、裁きの炎で断末魔の叫びを聞くのが仕事。
悪を裁くために、心を無にする。
戦闘狂の魔王は、愉しんで地獄の炎を操るのだ。
拷問一家で悪を裁いてきた怜音の方が、その役目に相応しいのだが、神は魔王を選んだ。
それは、生まれを呪いもした怜音にとっては、有情だったのかもしれない。
時の流れが【創魔界】では物凄く早い。
地球の一年が百年以上になる。
人間が【創魔界】に住もうとしたら、一瞬で死に至る。
レオン達は百年ごとに遠征に行くことにした。
第一回目の遠征先は、自由の国アメリカ。
世界的に、公用語として扱われている英語は、生前の怜音の母語である。
怜音はアメリカ人の人間と日本の妖怪のハーフだ。
レオンは日本語も英語もわかる。
レオン達は、アメリカのトップに交換留学を持ちかけることにした。
アポなしの自宅訪問である。相手がこちらを知らないので、礼儀も何も通せない。
場所はアメリカ大統領ロバート・ロビンの白き豪邸。屋外プール付きの三階建ての屋敷。
その上空に次元移動できる空船を空中停止させる。
レオン達は正面から、屋敷に侵入した。
「ごきげんよう。アメリカ大統領。余はかの言うところの宇宙人だと思ってくれていい。平和的な外交を所望する」
「な、なんだね、キミ達は……!」
監視カメラを観て出てきた大統領とそれを守るSPらが驚く。
突如として現れた巨大な船が空に浮かんでいて、そこからレオンら十数人の【創魔界】人がやって来たのだから。
異分子と認識したSP達は一斉にレオン達に銃を向ける。
なんの連絡もなく、突然やって来た【創魔界】人に対し、アメリカ大統領は銃を下げさせた。
「どこから来た」
「【創魔界】と言う世界から」
「オモチャを向けても我らには通用しないぞ」
続けて魔王が鼻を鳴らして言った。
「試しに発砲してみるか?」
挑発してみたのは神王。その通りに、一人が発砲したが、銃がぐにゃりと溶けただけだった。
「世界の法則を書き換える。それが我々だ」
力を使ったのは魔王。【紅き閻魔】の異名をとる地獄界を統べる、神にも等しい炎帝ベアルト。
見た目はこどものようだが、創世の時代の三王は特別な王。
核兵器ですら、無力化する。
SP達はへたりと座り込んだ。
「挑発するな。余が初めに言ったことを忘れたか?」
この中で最も強い邪王レオンは、なおも友好的である。
人間をいとも容易く圧死させてしまうほどの力は、本気を出せば地球を滅ぼすだろう。
「確かにこんな力は初めて見る。目的はなんだ。話を聴こう」
大統領は両手を挙げて、降参の姿勢を見せた。