邪王レオンの底知れぬ邪力のその一端
「なん……ですと?」
ヤルダバオートが鳩に豆鉄砲を食ったような顔をしている。
「神力と似たような力、それが聖力の正体だね。信仰によって得られる神力と自身を信じる力によって得られる聖力。魔性によって得られる魔力。そして僕の悪鬼を滅さんとする邪力。怒りや負の感情によっても、邪力は増幅する。今君が使った力は、邪力だ」
「そんな……! 聖剣だって使えたのに……!」
ヤルダバオートの大暴走を、レオンの真実を告げる口が止めた。
「僕も聖剣を使える。邪王だけどね」
レオンはヤルダバオートから聖剣を奪い取った。
すらっと刃先を彼女の喉元に向ける。
「多少、しびれはするけど。ほら、この通り」
「私が、邪力を……?」
「聖剣に邪力が帯びても使えるのは、邪力で敵を滅さんとしているからだと思う」
神王や魔王達も騒ぎを聞きつけてやって来た。
「俺の国でよくも好き勝手に暴れてくれたな。この貸しは高くつくぞ」
神王が般若の形相で、怒り狂っている。
神族達は聖剣に帯びた邪力の攻撃によって、死んでしまった。
神王が怒るのも当然至極だ。
「……もう少し暴れたかったです。初めて手にした力……、封印するのは惜しいです」
しょんぼりとした表情で、ヤルダバオートが呟く。
「封印しなくてもいいけど、相手を選んで使うべき力だよ。おしおきが必要だね」
そう言って、レオンはヤルダバオートにデコピンを一発食らわせた。
血を流すヤルダバオートは、一瞬で気絶した。
気絶させるほどの威力だが、本気を出してはいない。
本気を出したら、殺してしまうから。
「デコピン一発で気絶させるか」
魔王が感心したようにぼやく。
「ちゃんと加減してるよ。気を抜くと圧死させちゃうからね」
「物騒な台詞ですね」
「ドン引きです」
交換留学生にはドン引きされているが、レオンは怯まない。
「強くなければ、守れるものも守れないんだよ」
あのとき庇ったあの子を、鬼山怜音はきちんと守れただろうか。
そのことだけが日本での心残りだった。
今更日本のあの実家に戻りたいとは思わない。
良い思い出なんかなかった。
毎日が血生臭くて、苦しくて辛い拷問の訓練にも耐え続けていた。
それがなくなったのだ。
これ以上の幸福はきっとないだろう。
邪王レオンは気絶したヤルダバオートを俵のように抱えて、場所を移動するように皆を促した。
幸い、死者は蘇生術で蘇ることができるらしい。
魂がまだこの地に留まっていたからだそうだ。
眷属が仲間である神王のこども達を殺すことにならなくて、本当に良かった。
神王城に戻ると、神王がまた、ぷんすかと怒り出した。
「なんなんだ、お前のあのエセ眷属は。一国を滅ぼさねば気が済まないのか? 全く、とんだ悪人だな。俺の国をめちゃくちゃにしてくれた。もう幽閉などでは済まさんぞ。いくら女こどもだからと言って、加減を知らぬ者に、同じ法は通用しない」
「女性には優しくしたいものだけど、本人が優しくない場合は、僕も手を出さざるを得ない。限度ってものがあると僕も思う。ごめんね、神王。僕と彼女が眷属になってしまったばっかりに」
「邪王のせいではない。せいではないが……しかし……」
神王は悩んでいる様子だ。
「地獄の炎を一度味わわせてやろうか」
「それは鬼畜だと思うけど、いいの? 魔王」




