血の海で踊るヤルダバオート
一方、その頃――。
牢屋番がお盆に載せたミルクとパンを持って牢屋に帰ると、そこにいるはずの者がいなかった。
もぬけの殻。
「……脱獄したか」
チッと舌打ちして、鉄でできた牢が切り刻まれているのを目の当たりにした。
どうやら、ヤルダバオートは数時間も我慢できない戦闘民族のようだ。
早くこの事態を知らせるため、牢屋番はテレパシーを使って神王に呼びかけた。
『神王様、神王様。どうか、お返事を』
『なんだ、どうかしたか』
神王が呼びかけに応えた。
『ヤルダバオートと名乗る少女が消えました。地下牢を切り刻んで。脱獄した模様です。警戒を』
『なんだと!? 行方は掴めないのか?』
『残念ながら我々の力では、宇宙人の生態は把握しきれず……。真に申し訳ございません。もう少し目をかけておくべきでした。私の失態です』
『良い。過ぎてしまったことは仕方がない。邪王に報告する。眷属のことならば、主の方がよくわかるだろう』
『はっ。お心遣い、痛み入ります』
その場で敬礼して、牢屋番はパタパタと駆けていった。
よく知らぬ宇宙人がこれから何をするつもりなのか――。
もしかしたら、邪王の眷属であることをよしとして、この世界をほしいままにするのかもしれない。
危険人物だ。
脱獄したヤルダバオートは、聖剣を片手に城下町へと繰り出した。
神力を持つ神族達に、果たして聖力が効くかどうか。
ヤルダバオートは聖剣を聖力で伸ばし、長剣のサイズに変えた。
そして大暴れ。
道行く人々を片っ端から斬り伏せていた。
やっていることは外道そのものである。
だが、頭が若干痛むような気がする。
(聖力は神力にも有効……! いよいよ最強が決定しましたね)
ニヤリと薄ら笑いを浮かべて、血の海を形成していく。
腕や首を斬り落とし、神族達に大打撃を与える。
血の海を舞う、残酷な戦乙女のように。
活気に溢れんばかりだった、神聖アルカディア帝国を、一人の野蛮な少女がぶち壊す。
平和なはずの国を脅かす蛮族の正面からの攻撃に、神族達は耐えられない。
「野蛮な異人め……! 神王ザッハの名の下に、我に力を貸し与え給え。【神王の威光】」
強烈な光でヤルダバオートを攻撃する神族の女性。
光線に刺しまくられ、血まみれになったものの、その口元に浮かぶのは笑み。
漸く戦える者が現れたかと思うと同時、これから蹂躙するぞと息巻いているバーサーカーである。
「その程度で私を止めたつもりですか……?」
最早誰も止められない。
暴れ狂う血の制御が利かないと思ったとき、助けが現れた。
「その力は君のものじゃない」
邪王レオンだ。




