遠い日の思い出、神王と邪王の喧嘩
勿論、神王は邪王レオンのことも人一倍気にかけている。
本当の兄弟のように。
三王は、種族は違えども素晴らしい仲間である。
神族と魔族は、本来は相容れぬ関係。
だが神王と魔王は仲が良い。
神王は真面目だが、多少冗談を言える茶目っ気もあるからかもしれない。
二人は敵対する種族の王なのだが、コンビを組めるほど仲良しである。
その二人の仲に、レオンがクッションのように挟まっている。
皆の元に飲み物の入ったグラスが置かれると、神王がグラスを持って口を開く。
「では、邪王レオン様に、乾杯の音頭を上げていただくとするか」
ニヤリと口の端が持ち上がっている神王。
「よろしくな、邪王レオン様」
魔王も悪戯っぽい笑みを浮かべて、レオンの方を向く。
「君達に様付けで呼ばれると、気色悪いんだけど」
苦々しい表情で、悪態をつくレオン。
何か良からぬことを考えていそうで、腹の中を探りたくなる。
「「「「「よろしくお願いします」」」」」
交換留学生達も頭を下げて請うので、観念してレオンは一つ咳払いをした。
「神王、魔王、そして交換留学生のみんな……今日からよろしく。……乾杯!」
グラスを掲げて、全員が乾杯と復唱して、近くの者同士でグラスを合わせる。
チン、と小気味良い音が鳴った。
皆それぞれに食べ方が異なっている。
レオンは異文化交流は新鮮だと思った。
食事の時間が早く流れていく。
楽しい時間は永遠には続かない。
次のイベントを早く催せと神が言いたげに。
「牢屋に繋いだあの人には食事は与えないんですか?」
交換留学生の少女が心配そうな顔をして、訊ねた。
「牢屋番が持って行くので心配ない。それに、一週間ぐらい飲まず食わずでも死にそうにないぞ、あやつ。邪王に手傷を負わせるほどの手練れだからな。魔王ですら、狙われていたら危うかっただろう」
神王は声色こそ冷静なものの、腸が煮えくり返っているほど、怒りを孕んだ目つきをしていた。
大事な玩具を他人にぶち壊されて、怒り心頭に発するこどものように。
「邪王様は手傷を負わないのが普通なんですか?」
興味を持った交換留学生の少年が訊いてくる。
「強力な結界を常時張っているよ。ミサイルが飛んで来ても、無傷でいられるほどだから」
「へー、凄いですね。核ミサイルでも敵わないんですね」
「一度邪王と喧嘩をしたことがあるのだが、どんな兵器も通用しなかった。化け物かと思った」
神王が肩を竦めさせて、摩訶不思議な物体を見るかのようにレオンを見つめた。
「よく言うよ。最新鋭の超弩級戦艦を何隻も用意したくせに。あれを開発するだけで化け物だよ。そっくりそのままお返しするね」
二人は遠い日を思い出す。
「お一人で戦ったんですか?」
「うん」
けろっとした顔でレオンは答えた。
「愉しかったよ。神王が悔しがっている姿を見るのは」
「正に、規格外の強さなんですね、三王様は」
「終焉のラッパすら効かない。……全く、敵でなくて良かったとほんに思う。強すぎだ。どうすれば倒せるんだ、お前は」
「ただの重力使いだよ。人外なのは認めるけど」
それ以上に操れる対象があるが、レオンはおどけてみせた。
邪王レオンは重力で、自分の体重を制御したり、対象を圧し潰したり、無重力で相手の自由を奪ったりすることもできる。
コウモリのように逆さ吊りになっても平気だ。
垂直の壁も真上や真下に走れるし、水上も走れる。
空中戦も得意で、苦手な分野はない。
反重力もレオンには一切効かない。
伝承にある吸血鬼ほど弱点がないので、一人で国を滅ぼすのも朝飯前になる。
今のところ、弱点は『聖力』だけである。




