僕は男だ
「素敵? 何故そう思うんですか? 世の中には、視えなくていいものの方が多いですよね」
「ソレデモ、視たいもの、視えるコト、いいことだと思うワ」
前世の怜音には、視たくないものが視えていた。
人の悪しき心やその悪しき心から生まれ出づる悪の化け物。
それらは他の人には視えなかった。
人間の血も持っていた怜音もまた、悪の化け物によってその悪しき心に蝕まれるときがあった。
世の中の悲しい事件や苦しい事件、すべてそれらに取りつかれた者の仕業。
怜音はそれらを宿主ごと斬ってきた。
それらを総称して、悪鬼羅刹と呼ぶ。
「僕は、くさいものにはふたをするのが一番だと思いますけどね。人間は際限ない欲と悪の心で、とんでもない化け物を生み出してしまう。始末しても、始末しても、次から次へと湧いて出てくる。自分の心の方が壊れそうになる」
「ソウ……。辛いコト、アッタノネ。レオンクン……」
メリーは目に涙を浮かべて、そっとレオンを抱き寄せた。
会ったばかりでよく知らない、妖の男の頭を撫でるその姿は、およそ人間とは思えないほど、澄んだ心を持っていた。
レオンは最初驚いていたが、すぐに悟り、父親が禁忌を犯してまで、この女性を好きになった理由が、わかった気がした。
「メリーさんこそ、素敵な女性だ」
武蔵はメリーを見つめて、口説く。
レオンは複雑な気持ちになった。
好きになるのはわかるが、父親が目の前で母親を口説くシーンなんて、気恥ずかしくて、見ていられない。
「武蔵さん、貴方は他の男がいる前で、女性を口説くんですか?」
レオンがギロッと睨みつけると、武蔵はビクッとした。
「とんだナンパ野郎ですね」
「そ、それはその……レオン君は他の男に見えないっていうか、その、ごめん」
「ああ⁉」
『ガラ悪イデスネー。アハハハ』
武蔵がしどろもどろに後頭部を押さえて、照れながら謝る。
レオンは男だと思われていなくて、声を荒げた。
「そ、そう怒らないで……。どうどう。レオン君はなんだか、初めて会った気がしないんだよ……何故か。女の子みたいって言っているわけじゃないよ? なんだか、家族みたいに思えてくるんだ……」
「……それ、女性にも言ってないでしょうね?」
レオンは武蔵の胸倉を掴んで、凄んで問うた。
「言ってない、言ってない‼ っていうか、何……。レオン君、怖いんだけど……。ひょっとして、ヤのつく人?」
「あんたもそーだろうが‼」
レオンと武蔵は不毛な争いを繰り広げていた。
見かねたメリーが止めに入る。
「喧嘩ハヤメテー‼ 私ノタメニ、争ワナイデー‼」
「貴女のために争ってないけど」
「え、違うの? てっきり、メリーさんを取られたくないばかりに、怒ったんじゃないの?」
「そんなわけないでしょ。(父親の)ナンパは目の毒なだけ」




