メリーと武蔵
メリーは意を決して、不審な動きをしていた理由を話した。
駅の近くで財布を落としてしまったそうだ。
クレジットカードや身分証などが入っているので、悪用されると困る、とメリーは言う。
レオンは不安がる彼女を安心させるように、『大丈夫。きっと優しい誰かが財布を届けてくれますよ。ここは日本ですから。拾得物が返ってくる可能性は、世界一です』と告げた。
メリーは不安そうな顔をぱっと綻ばせ、レオンの両手を握ってくる。
「アリガトウ! 貴方のおかげで、見つかりそうな気がしてきたワ!」
「それは良かった」
レオンはにっこりと微笑む。
怜音を産んで、若くして亡くなった母親、メリー。
こうして話ができるのは、奇跡と呼ぶべきか。
怜音は母親がどんな人か、知らなかった。
だから恋しいと思ったこともない。
だが今は、出会ってしまっているので、愛おしく感じてしまう。
それがいいことだとは限らないが、出会わなければ良かったなんて、後悔はしたくない。
納得のいく別れをしたい。
そしていつか、彼女のことを思い出して、笑顔を記憶の隅に刻んでおきたい。
駅で暫く待っていると、こっちを見て、黄色の長財布を掲げて横に振る男性が、笑顔でやって来る。
その顔は、よく見た顔だ。
怜音の父親、鬼山武蔵。
若い頃の姿は写真でしか見たことがなかった。
黒髪黒目のハンサムな男。
金髪美女のメリーと釣り合い、絵になる二人。
「これ、落ちてましたよ。駅の売店で」
「アリガトウゴザイマス。あの、お礼、シタイデス……」
「お礼なんて、要りませんよ! 日本人として当然のことをしたまでです!」
ぶんぶんと手を振って、武蔵は拒否する。
レオンはありがたく受け取ればいいのにとジトっとした目で睨んだ。
父はハンサムだが、色々と気の回らない男で、怜音とは大違いだった。
「ジャア、お名前を……」
「武蔵です。鬼山武蔵」
「ムサシ⁉ センカンムサシ? Wow,Oh my god!」
財布を受け取って、キャリーケースに入れながら、メリーは興奮した。
「はあ。男らしいという理由で父に付けられたもので……由来までは……。貴女のお名前は?」
「メリー・トムソン。アメリカ人デス」
「メリーさん。Nibe to meet you」
武蔵は右手を出して、握手を求めた。
メリーはそれに応じる。
「ムサシサン。私コソ、貴方ニ会えて良かったデス」
そして、メリーはハイヒールの靴に包まれた足を伸ばして、武蔵の顔にキスをした。
アメリカ人は挨拶で頬にキスをするのだが、異性同士はどうだかわからない。
頬が紅潮しているので、少なからずメリーは武蔵に好意を抱いているようだ。
「そちらの方は?」
「あ、僕……? 僕は……邪王レオン。宇宙人みたいなものです」
「ジャオウ……? 変わった苗字ですね」
「貴方、レオンとイウ名前なのネ。私ノ兄の愛称と同じだワ。レオンハルトとイウノ」
「へえ……。奇妙な縁ですね」
「レオン君か。君はメリーさんとはどういった仲で?」
「さっき知り合ったばかりです」




