悪魔より悪魔らしい人間
地獄界は言うほど地獄ではなかった。
想像よりも、空も大地も真っ赤な世界だが。
少し気温が高いくらいで、火山もあるが紅いだけで、おどろおどろしい雰囲気もない。
大抵の者はもっとおぞましい世界を想像するだろう。
血で血を洗う戦が年中起きている様子とか。
地獄界がそこまで怖くないのは、秩序を保っている魔王がいるからだろう。
だが悪さをすれば、地獄の炎で火あぶりの刑に処される。
想像を絶する痛みだとか。
悪神ロキも泣き叫ぶほどの猛毒に等しいかもしれない。
「想像すれば血の池も創れるぞ。ここを統べるのは、魔王ベアルト・リース、このオレだからな」
「グロいので見たくないです」
「私も」
「俺も」
「そうか……」
交換留学生達に断固拒否され、少し気を落としてしまった魔王。
どうやら見せたかったようだ。流石戦闘狂。
交換留学生達は地獄界を散策する。
わからないことがあれば、すぐさま地獄の王に問うた。
神王のように、魔王も得意げに話す。
この中で一番地味な活躍をしているのが邪王レオンだ。
三王の中で唯一統治する国や世界を持たない王。
世界を監視するのが役目。
不老不死であれば、国を持ち、滅びない世界を創造すればいい。
だが、レオンは一度小さな世界を滅ぼされた。
ヤルダバオートと名乗る少女の親族によって。
臆病になっているのかもしれない。
が、その自身の仇の親族が眷属になってしまった。
思考を盗聴されかねない。
ので、考えることをやめた。
「悪魔って、羽があるんですか?」
交換留学生の男子が訊いた。
「ああ、あるぞ。普段は人間とさして変わらん。化けられる。天使も羽がある。だが、よほどのことがなければ、空を飛ぶことを禁じている。事故があったからな。瞬間移動も同様だ。読心も禁じているが、眷属になれば思考が筒抜けになることもあるからな。悪魔はちょっとした悪戯が好きなだけの種族だ。血や臓物も好むが、そこまで悪いものじゃない。オレに言わせれば……」
魔王は一呼吸置いて、
「人間の方が悪魔よりよほど悪魔らしい。嘘偽りだらけじゃないか。……っと、君達は人間だったか。すまない、口が滑った」
「なんせ、我が同胞邪王レオンを嵌めたのが人間だったからな。宇宙人にも嫌悪を抱きかねない」
神王や魔王は邪王であるレオンの大切な仲間だ。
お互いに思い合っている。
「人間は……弱いんです。でも強い人間もいると思います。強くて優しい人間も……数は少ないだろうけど……。弱いから、目の前にぶら下げられた餌があれば、すぐに食いつく。人を傷付けずにはいられない。でも、忘れないでください」
「優しさという強さを持つ人間もいることを。」
交換留学生の一人の少女が、レオンの手をぎゅっと握り締めた。
訴えかけるような、悲痛な眼差しで。
「神サマはきっと試しているんです。人間が欲だけに溺れず、最後には笑顔で手を取り合えるほど強くなってくれるかどうかを。私達ならできますよ」
「……」
そうだといいな、とレオンは力ない笑みを見せた。




