血の記憶について
用事が終わったので、帰ろうとすると、林が起きてきた。
「邪王レオンさん」
「何、林君。これで労働力は人間の千倍くらいになったわけだけど、まだ僕らの力を借りたい?」
「はい。私達には、もうトイレも必要なくなったわけですが……これがこの世界で生きる術ならば、中国に残してきた貧民達を呼んで、大華共和国を繁栄させたいです」
「そう。君の野望、わかるよ。せっかく掴んだチャンスだもんね。僕もできることなら、協力したい。だけど、今回はたまたまだよ。五十%の確率で死ぬから、試行回数が多ければ多いほど、死に近づく。死んでしまっても構わないと考える人間がどれほどいるかな。死は怖いものでしょう?」
一度死んだ記憶を所持しているレオンだから、忠告できる。
あのとき願ったのは、やはり死が怖かったからだ。
永遠の闇に葬られることが、自身の存在が終わることが怖くて仕方がなかったから、願い事をした。
この第二の生が、映画のエンドロールみたいなものだとしても、あのまま終わりなんて、迎えたくなかった。
やりたいこともたくさんあったから。
永遠に生きていたいとまでは願わなくとも、幸せを享受したかった。
誰かを庇っても死なないぐらい、もっと強くなりたいと。
誰よりも強く、そうなりたいと思った。
神はその願いを叶えてくれた。
だからレオンも、下位の者にとって神のような存在になりたいと思った。
心から幸せを願う人々にとって、一縷の望みで在れるようにと。
「確かに、いずれ訪れる死は怖いものです。私達にはどうすることもできない。いつ死ぬかもわからない。死を予期できれば、怖さも半減するかもしれませんが」
「わかるよ。いつ死ぬかどうか」
「え?」
「血がすべてを教えてくれる。僕は超精密な血液検査ができるからね。医者より正確だよ」
「そんな、医療行為みたいなことが、本当にできるんですか……?」
「うん。僕が【血鬼】と呼ばれるのは、血を操る鬼であることと血を使って、情報を得られることが理由だろうね。重力操作以外にも、炎や水を操ったりできるし、血液を操ってドロドロにしたり、サラサラにしたりもできるよ。結構万能かもね。人や血の流れる生物は血の状態が悪くなると死ぬからね。今、超人になった君達もまた、僕の血液操作によって死ぬ」
人間の世界では、血液検査でさまざまな病気を発見できる。
レオンは対象の血を飲むことで、あらゆる情報を手に入れられる。
血の記憶――対象がどんな人生を送ってきたかさえもわかる。
そして、これからどんな死を迎えるかもわかる。
知りたくなくても知ってしまうので、基本的に親しい間柄の者の血は、飲まない。
怖いからだ。
その身に何が起こるか、予測できても回避できない。
絶対の未来予知の力。
呪いのような力だ。
「これは脅しみたいだったかな。ごめんね。未来が知りたくなったら、僕を呼ぶといいよ。占術より高精度だから」
「はい。そのうち……」
林は呆然としながらも、未来を知りたい気持ちが僅かにあることを口にした。
恐ろしいはずだが、迷いはないのか。
レオンは約束通り、労働者の鬼族を千人派遣することにした。
連れて来た鬼族は五百人だったので、追加で五百人を召集した。
彼らが手伝えば、大華共和国(仮)は国として機能し始めるはずだ。
鬼族のみんなは仕事が早い。
だから鬼族を林の指揮下に入らせる。
一夜にして国が完成してしまうかもしれない。
「何から何までありがとうございます。明日行きます。ドラゴンライド試乗祭」
「うん。みんなで来てくれると嬉しいな。終わったら、国づくりに励んだらいい。明日一日ぐらいは、責務を忘れてもいいと思うよ」




