【主従契約】、やってみる?
大華共和国(仮)では、簡易テントでできたキャンプ場みたいな家が十個あった。
それから、汲み取り式のトイレ。
【操法】を使えない人間が、この五次元の世界で思い通りの国をつくるのは、困難なのだろう。
工事が全く進んでいないので、苦労していることが手に取るようにわかる。
大嵐などが来たら、一瞬で家がなくなる。
レオンと鬼族達とメドは林を探して、テントの主に確認を取る。
「林君、いるー?」
「わたしは林さんではありません」
中国語で返事があった。
レオンはなんとなくだが、ニュアンスがわかった。
別のテントを回る。
「林君」
「はい。邪王さんですか。手紙のお返事届きましたよ、ありがとうございます」
「うん」
しゃっとテントの扉を開けて、中に入れてもらうことにした。
レオンは早速、林にチラシを十枚渡した。
「ドラゴンライド試乗祭をやるんだ。来てね」
「ドラゴンライド試乗祭……?」
「移動手段があると便利でしょ? 竜は生物を乗せて大空を駆けるのが好きな生き物なんだ。竜にとっては、一石二鳥ってわけ。林君は人間だし、疲れているんじゃないかと思って、気分転換しに来ない?」
「はあ……ですが、諸々の工事も食事もままならないまま……」
「んーそうだね。人間は何かと大変だ。人間じゃなくなるけど、いい方法があるよ。この世界の王として認められる方法。失敗したら、死ぬけど」
レオンが顎に指を当てて提案した。
林は固唾を呑む。
「どんな……?」
「【主従契約】。成功すれば、【操法】やテレパシーといった超次元の力が使えるようになる」
「成功率はどのくらいです?」
「半々くらい。他には、体力が人間とは比べ物にならないほどつく。【主従契約】だから、僕の命令には背けないけど、やる?」
「はい。強くなれるのであれば」
「意思が固いんですね。成功しますよ、きっと」
メドが林の背中を押した。
林は笑顔を返す。
「全員がやってもらうことは可能ですか?」
「うん。大丈夫だけど、林君以外の人は覚悟できるかな?」
「貧乏暮らしで辛い日々の話を聞きました。覚悟できると思います」
「貧しい暮らしから抜け出せるなら、命を賭けることも厭わない、と」
林の覚悟を受け止め、レオンは【主従契約】の準備にとりかかった。
外に出て、人二人分が入れるくらいの大きさの円を描く。
次に主であるレオンの血と従者になる林の血を地面に垂らした。
円を更に細かく描いていって、【主従契約】の準備は万端だ。
林の指の傷口に、レオンは邪力を少しずつ流していく。
「無理そうだったら、言ってね。初めは拒絶反応が出るから」
「わかりました」
邪力をどんどん流し込んでいくと、林の穴という穴から、ドッと血が噴き出した。
「ごばっ……!」
「大丈夫かな。意識をちゃんと保ってね」
レオンは林の苦しそうな顔を見て、心配した。
人間を超えるというのは、生半可な覚悟では決して成し得ないこと。
確固たる意思があって、初めて人を超える存在になれる。
レオンは林を信じる。
人の上に立つのに相応しい、彼の男気を。
「頑張れ、林君」




