人生には意味があるか、否か
レオンは紅蓮城の大広間にいる中国人らを客間に案内し、昼飯をご馳走することにした。
いつも持って来てくれる鬼女は結婚したので、退職。
代わりに鬼子が配膳係になった。
ピンク色のポニーテールのウィッグを被った鬼子も見目麗しく、よく気のつく子なので、もしかしたら早々に結婚してしまうかもしれない。
レオンは想像して、少し寂しくなった。
このまま自分だけ独り身の可能性は高い。
生まれてこの方、好きという感情でドキドキしたり、胸が苦しくなったりしたことがないから。
客間に着くと、上座に座るレオン。
客人に譲ろうかと思ったが、城主が指揮を執るこの場所で、譲るべきじゃないかとも思った。
林慈雨達はレオンのすぐ近くの席に座る。
「ねえ」
「なんでしょう?」
「恋って、したことある?」
「は?」
林と他の中国人移民が間の抜けた表情をした。
意外な話題だったのだろう。
「僕の他に同列扱いの魔王がいるんだけど、その魔王が恋愛結婚したんだ。付き合っていたかは不明だけど」
「はあ……魔王さんですか。悪魔の王様ですか?」
「うん。魔族の王様。魔族の中で一番魔力が高くて、【紅き閻魔】としても活躍している、凄い奴なんだけど。僕と神王は、恋愛はからきしでね。林君なら、何かわかるかもしれないと」
「思ったわけですね」
林はよく考えて、答えた。
「恋愛は居心地の良さとか、趣味が合うとか、相手のことをもっと知りたいとかの理由で始まると思います。ある人曰く、ドキドキするのが恋愛。ドキドキしなくなると破局って感じですね」
長いテーブルに鬼子が玄米と漬物と味噌汁とサラダを置いていく。
貧民の中国人移民達はご馳走だと喜んでいた。
今までどんなものを食べてきたのだろうかとレオンは少し悲しくなった。
「ふーん、そうなんだ。居心地の良い女性ねぇ……。こども達は居心地がいいけど、恋愛とは違うし。難しいかな」
「私もまだ恋愛経験がなくて、お恥ずかしいですが」
「恥ずかしくなどあるまい。知識だけでもあっていいじゃないか。恋愛した者が偉いなどとは誰が言った。生きているだけで偉いぞ。人生という戦いに身を投じているのだから」
神王が漬物を箸で掴んで咀嚼し、林を励ました。
いや、ここにいる全員を褒めたのかもしれない。
生きているだけで偉い、か……。
鬼山怜音として生きていたときに聞きたかった言葉だ。
あのときは何もかも余裕がなくて、心の闇が深かったから。
転生して、神王みたいな立派な王に出会えたのは、僥倖なのかもしれない。
いい仲間に恵まれた。
今世で一番の自慢だろう。
「俺の人生は谷だらけだ。神は試練をお与えになる。俺のこども達ばかりが悲惨な目に遭う。代わってやりたいと何度も思った」
「神王……」
レオンは眉尻を下げて、神王を見つめる。
「だが人生には意味がある。あのとき何故それが起きたのか、解明せねばならん」
「意味ですか。そんなもの、本当にあるんでしょうか」




