エピローグ 雪鬼と桜小路りむ
鬼山怜音が黒髪の幼き女の子を庇って死してから、八ヶ月余り……。
地球の鬼山家に訪問者が現れた。
自信なさげに、幼き女の子が鬼山家の門戸を叩く。
「あの、すみません……」
ぱっつんの黒髪で、ボブスタイルにしている幼き女の子。
服はメイド服で、クラシカルな白と黒のコントラスト、よく似合っている。
だが自分に自信がない女の子の紫色の瞳は、揺らいでいた。
何度か門戸を叩くと、やっと警戒心を解いた屋敷の者が出て来る。
出て来たのは、雪鬼だった。
幼いとはいえ、怜音もレオンも愛する雪鬼にとっては、恋敵になりかねない存在。
鋭い視線で睨めつけた。
「あの……私、桜小路離夢と申します……。そちらにいらっしゃる鬼山怜音様に、以前助けていただいたことがあり……、お礼をしに参ったのですが……」
おどおどしながらも、名刺を両手で差し出し、雪鬼に説明した幼き女の子、離夢。
七歳くらいの若さで、敬語を完璧に使いこなすさまを見て、雪鬼は驚いた顔をした。
「貴女、何故こどもなのに完璧なのです?」
「え?」
「そのこの名前……なんて、酷い。わたくしの怜音様が見たら、きっと悲しまれる……。ですが、りむという名は可愛いですね。これからは平仮名表記にしなさい。怜音様がここにいらっしゃれば、きっとこうおっしゃるでしょう」
「はい……。かしこまりました……」
「どうしてそう、自信がないのです? 貴女はとても賢く、優秀なこどもでしょう? おどおどと自信なさげに振る舞っていては、せっかくの能力も台無しです」
雪鬼は着物を手で押さえて屈み、小さな女の子、りむの頭を撫でた。
「何があったかはわかりかねますが、貴女はまだこども。完璧でなくてもいいんですよ。それで叱る親なんて、親失格です。こどもだから自由に飛び回って、色々な世界を見てくるといいですよ」
「私……親はいません。孤児なんです。拾ってくださったご恩を返すため、お屋敷で給仕をさせていただいています。完璧にできないんです。いつも失敗してばかりで……。ですが、ご主人様は優しくて、絶対に怒らないんです。本当にお優しい方です。私は早く一人前になりたいです」
りむは目を瞑って、胸の前でぎゅっと手を握った。
「先ほども言いましたが、こどもなのに完璧にしなくともいいのですよ。何故貴女はそこまで追い詰められているのです? 本当に、拾ってくれた人は良い人ですか? 貴女、騙されていませんか? 怜音様ならば、もっと好待遇で迎えてくれますよ」
「給仕をさせてくださいと申し出たのは、私なんです。ですから、あのお方は何も悪くありません。失敗ばかりする私が悪いんです……!」
「そんなに自分を責めないで、りむちゃん」
雪鬼はりむをそっと抱き締めた。
りむの目に涙が浮かぶ。
「その方の名前、わかりますか? わたくしが調べて参りますから」
「平賀屋敷土左衛門様です」
「その名前……!」
雪鬼はハッとした。
裏社会で名の通っている、極悪人だ。
表向きは孤児を引き取る善人の皮を被って、裏ではこどもを騙して犯罪の片棒を担がせている。
殺人や麻薬の密売といった悪事に手を染めている一家だ。
変装の名手で、警察も居所が掴めない、真っ黒な男。
「りむちゃん、その男とは、縁を切りなさい――!」
今年の更新はこれで終わりです。
ちょうど一巻目が終わりました。
二巻目の更新は1月7日予定です。




