魔王の新婚旅行
一方、その頃――。
魔王は鬼女と二人で新婚旅行に出かけていた。
レオンに内緒で邪竜イコロスを貸してもらい、大空を駆け巡る旅だ。
鬼女はイコロスに乗って旅をしたことがなかったので、大喜びしていた。
両手をバンザイさせて、風を切って空を走るのが気持ちいいらしい。
鬼女が案外お転婆だったので、魔王は腰を支えた。
「【創魔界】ができてから約三百年……色々なことがあった」
「そうですね」
「事件も起きたが、比較的平和だったな」
「はい。我々は三王様のおかげで幸せに暮らしております」
「なあ」
「はい?」
「オレ達はもう夫婦なのだから、いい加減敬語はやめにしないか」
「ですが……私は一般鬼族ですよ? 【創世の三王】様と肩を並べるなど恐れ多いことです……」
「ならば、オレだけでいい。オレが隣に立ってくれと言ったのだ」
鬼女の顔がりんごのように赤く染まる。
「そんな……私は後ろを歩くような、不束者です……」
「もっと自信を持て。貴様には日帝王妃としてオレの傍でずっと見守っていて欲しい。オレが死すときまで」
「はい……!」
鬼女の瞳が涙で潤む。
敬語は取れそうになかった。
魔王は鬼女を抱き締めて、『病めるときも健やかなるときも』と呟く。
意外にも教会式の言葉を告げる魔王。
「やれやれ。お熱いですねー。魔王様」
イコロスが目を線のような形にして茶化す。
「はっ! イコロスさん、ごめんなさい。あなたの乗り心地が良くて、一瞬乗り物だと勘違いしてしまいました……」
抱き締められながら、鬼女は慌てて言い訳をする。
「いいえー。竜族は乗り物。その認識は間違っていません。主様が竜族を大量に生み出して、ドラゴンライドを恒常化させようかなとおっしゃってましたし」
「そうなのか。貴様達はそのような扱いでいいのか?」
「使ってもらえることが至上の悦びです。我ら邪竜兄弟は主様のための手足となりましょう」
覚悟の決まった声音だった。
イコロスは本当に邪王レオンが好きで、彼のために働きたいと思っている。
新婚旅行の乗り物として借りるのは、まずかっただろうか。
魔王は暫し悩む。
しかし邪王レオンとは旧知の仲。
イコロスが乗り物になるのを快く引き受けてくれたのは、邪王レオンあってのことだ。
今度レオンとイコロスに何かを贈ろうと魔王は思った。
「私も邪王様に使っていただけることが至上の悦びでした。今でもその気持ちは変わっていません。ですが、今は――魔王様のお役に立てることが、とても嬉しいのです。邪王様と比べられないくらい」
「鬼女……」
夕日の差す鬼女の顔が、一層美しく照らされる。
二人は抱き締め合い、愛を確かめ合うようにキスをした。
イコロスは背中で何をしているか感じ取れるそうなので、顔を赤くしていた。
「背中でイチャコラしないでくださいよ、もー」
「ごめんなさい! 迷惑でしたね……!」
「すまない。今だけは空気になってくれ」
「恥ずかしいだけです。ラブラブすぎて」
文句を言うイコロスは、それでも楽しそうだった。




