交渉の秘訣
「じゃあ心配要らないね」
早速十人の交換留学生と話し合っていく。
国家主席の傍で待っていた、貧民を含む十人の少年少女達。
その移民受け入れを約束した。
最初に話した交換留学生が手を挙げて、林慈雨と代わることを宣言した。
国家主席は林慈雨の居場所に心当たりがあったのか、携帯電話で連絡を取って、スピード解決に向かってゆく。
すぐに国家主席の自宅に向かうそうだ。
神王はレオンと共に同席していたが、言葉を一言も発さなかった。
こういう交渉の場では、一人が進めていった方が早いと判断してのことだろう。
事実、神王が口を挟まなかったので、交渉はどんどん進んでいった。
しかし、ずっと無言の置物化するのも疲れるらしい。
神王が暫くぶりに口を開いた。
「魔王の新婚旅行はどうだっただろうな」
ぽつりと呟くように話す神王。
答えを求めていないようにも取れたが、レオンは返答した。
「一緒に行きたかった? だけどダメだよ。新婚旅行は夫婦二人で行くから、意味がある。邪魔者になるよ」
レオンはジト目で神王を見つめ、薄ら笑いを浮かべた。
神王は『うっ』と言葉に詰まった様子だ。
「俺はどこに行ったんだろうなと言っただけで……」
咳払いをして息を整える神王。
誤魔化している。
レオンの目は誤魔化したのを見逃さなかったが、敢えてそれに乗ってやることにした。
「そりゃ【創魔界】のどこかだよ。こっちに来てもわからないことが多すぎるでしょ?」
「そうか……」
「そうだよ!」
「俺の近くにいたはずの魔王が遠く感じる」
「僕もだよ」
レオンはうんうんと同意した。
「どんどん遠いところに行っちゃうかもね」
「ああ……寂しいな。俺だけ一生独身のままか……」
神王は口元を覆った。
いつも三人一緒だった。
結婚が三王の仲を引き裂くわけではないが、寂寥感に襲われるのは、レオンも同じだった。
「わかんないよ。僕も結婚できるかどうかわかんないし……」
呼び出していた林慈雨が到着した。
眼鏡をかけた、如何にもインテリそうな黒髪黒目の少年だ。
「お待たせ致しました」
敬語も使えるし、第一印象は頭の良さそうな好青年だ。
かの孫子の生まれ変わりと称されるのも、わかる気がする。
「では、交換留学もとい移住計画よろしくお願いします」
国家主席に握手を求められたので、握手し返した。
「本当に、宇宙人はいないんだよね」
「はい。生まれてこの方、そのような者に会ったことはなく……」
「信じるよ」
レオンは真剣な目で言い放つ。
「はい」
「じゃあよろしく。幸せに暮らせるように、いろんな知識を身に付けてもらうつもりだから」
「ありがとうございます。このご恩は必ず忘れません。いつかお返ししたく存じます」
「いいって。僕は昔から貧しいこどもや難民を救うのが好きだったから。趣味みたいなものだよ。困っているなら、いつ如何なるときも助けを求めて。きっと力になるから」
実力と経験を兼ね備えているレオンからの言葉は、誰よりも頼りがいのあるものだっただろう。
国家主席はにこりと笑って、お辞儀をして見送ってくれた。
故郷を去ることになった貧困層の中国人達は、いつまでも空船の窓から故郷を眺めていた。
離れていって、小さくなっても、ずっと。
お金がなくても、幸せだったのかもしれない。
あんなに惜しそうに故郷を眺め続けていたから。




